てんかんのある子供の教育

I. はじめに

てんかんは小児期に多く発症する病気です。てんかんのある子どもが成長・発育していくためには、てんかん発作を抑制するための医学的治療と、学校や家庭で子どもの病状や 特性に合わせた適切な援助を心がけることが大切です。

II.てんかんのある子どもの捉え方

学校教育では、てんかん発作が抑制されれば教育場面で何も問題をもたない子どもがい る一方で、てんかんだけでなく発達障害を伴う子どもがいます。教育場面で問題をもたな いてんかんのある子どもは、てんかんをもたない子どもと同様の見方で教育指導を行いま す。発達障害を伴うてんかんのある子どもの場合には、発達障害をもつ子ども達と同様に 脳内の器質(機能)的障害と障害特性の関連を考慮した上で、さらにてんかん発作や抗てん かん薬の副作用、てんかん性脳波異常などのてんかん性の機能障害を踏まえて、てんかん のある子どもを理解し教育指導を行うことが必要です(図‐1)。

III.学校場面でみられるてんかんのある子どもの問題点

ここでは、私が経験した療育相談でみられた学校場面での問題点についてお話します。

1)てんかん発作の指導場面(授業や学校生活)への影響に関する問題.

てんかん発作が指導場面にみられると、指導内容やその時の子どもの行動が中断された り、急に意識がなくなって強直したり転倒したりする発作では受傷する危険があります。 てんかん発作後に急に指導内容が理解できなくなったり、眠気や意欲の低下といった行動 がみられたりすることがあります。

2)抗てんかん薬の指導場面(授業や学校生活)への影響に関する問題.

てんかん治療中には、一過性に眠気、ふらつきや失調、気分の変容といった副作用が出 現する場合があります。このため、指導場面で急に授業内容や活動内容が理解できなくな ったり、眠気やふらつきまたは気分の高揚といった行動がみられたりすることがあります。

3)てんかん性脳波異常の指導場面(授業や学校生活)への影響に関する問題.

持続性のてんかん性脳波異常があるために、教師からの言語指示の理解や日常の会話が 困難だったり、登下校の道順を間違えたり、国語または算数の学習困難がみられたりする ことがあります。これらは徐波睡眠時に持続性棘徐波を示すてんかん(CSWS)や獲得性てん かん性失語といった特殊なてんかん性脳症でみられます。

4)指導者(教師、養護教諭等)のてんかんの症状に対する知識や対処等に関する問題.

指導者がてんかん発作に対する知識が不充分な場合には、てんかん発作が1回でもある と体調が悪いと判断してその後の指導を中止してしまうことがあります。指導者が抗てん かん薬に対する知識が不充分な場合には、指導場面で子どもの行動が不安定になったよう な時に、その原因を薬物の副作用に転嫁しがちです。指導者は子どもが学習面や生活面で できないことを病気や障害によるものと決めつけてしまうことがあります。

5)指導(教育)環境の保障に関する問題.

てんかん発作への過度な危険防止やてんかんの症状に対する誤った判断により、体育や プ‐ルなどの運動や宿泊訓練や修学旅行といった学校行事への参加を必要以上に制限してしまうことがあります。家庭や地域の生活環境の中でてんかんに対する理解の不足や偏見 などがみられる場合、屋外での活動が制限され、てんかん児の成長・発育に必要な運動能 力や社会的生活能力が形成されにくくなります。

IV.学校場面での対処法.

これまでお話しました学校場面での問題点に対して、学校全体と担任がどのように対処 したら良いのかについてについて説明します。

1)学校全体としての対処

てんかんに対する正しい理解を学校全体でもつことが何よりも必要です。そのためには、 てんかんの専門家による研修会などを行い、教師一人ひとりがてんかんに対する正しい知 識を得ていくことが必要です。てんかんへの社会の偏見や差別に対しては、学校が作成す る定期的なお便りやお知らせの際に、てんかんのある子どもへの理解を促すような文面を 載せるような働きかけが大切です。学校と家庭との間で、てんかん発作の症状や学校生活 で想定される危険、緊急時の家庭との連絡方法などについて話し合うことも必要です。て んかん児が学校生活で必要以上の制限を受けないためには、子どもがどのようなてんかん 発作をもっているのかを家庭からの情報として把握することも大切です。てんかんのある 子どもの発達援助には、図―2に示す通り、てんかん発作を抑制するための病院、運動または 精神発達のための訓練・指導機関(学校や訓練機関)、医療または発達環境を整備するための 家庭の三者が互いに連携して、子どものニ‐ズに合わせて効率よく機能していくことが望 まれます。

2)担任による対応.

担任は、てんかんやてんかん発作時の対処に関する正しい知識を身につけることが必要です。てんかん発作による受傷の危険に対しては、「てんかん児の生活指導表」や「てんかん 児の生活安全地図」などを利用して、安全な学校生活を送れるように配慮することが必要で す。指導場面でてんかん発作や抗てんかん薬の副作用などがみられた場合には、子どもの 様子をよく観察して子どもに負担にならないように判断しながら指導を行います。具体的 には、指導場面で発作が多くみられる場合には興味関心度や注意集中力を高めるような課 題設定を行ったり、抗てんかん薬の副作用がみられる場合には子どもが積極的に周囲との 関わりを持てるように生き生きとした教育環境を整えていくことが必要です。指導者は、 子どもがてんかんという病気を持っていても他の子ども達と何ら変わるところがない一人 の成長期の子どもとして肯定的に捉えていく姿勢をもつことが大切です。子どもの達の前 でてんかん発作がみられた場合には、担任は慌てずに発作があった子どもに対して人間と してのいたわりを大切にして振る舞う態度を示すことが大切です。保護者にてんかんを理 解してもらうためには、どの子どもにも発達期に特有の苦手な面やできなさ感があること を説明して、個々の子どもを肯定的に捉えてもらうように働きかけることが大切です。

V.てんかんのある子どもと「発達障害」

てんかんのある子どもの中には、広汎性発達障害、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)や LD(学習障害)といった「発達障害」を伴う者が少なからずみられます。当院での療育相談で は、てんかんのある子どもが「発達障害」と診断されずに適切な教育的対応を受けていなか ったり、家族が行動面への対応に苦慮して必要以上に子どもを叱責したりして悩んでいる ことがあります。また、家族内で子育ての意見が対立して家族内の葛藤が深刻な状況に陥 っている場合もあります。「発達障害」が疑われる子どもは、できる限り早期にてんかん専門医による診断を受けることが大切です。「発達障害」と診断された場合には、速やかに学 校に説明して特別支援教育の対象として適切な教育支援を受け、豊かな人格の形成が図ら れるように働きかけていくことが大切です。

ー上記の質問に対する質疑応答ー

(教師からの質問)小学校 6 年生の女子で、発症して半年ぐらいです。授業中に時々小さい発作がみられ、そ の予測ができません。学校生活の中で注意することを教えてください。

まだ治療を始めて半年という段階なので、できれば早めにてんかん発作の症状や抗てん かん薬の副作用の影響について理解しておく必要があります。そのため、担任が保護者か ら許可を得た上で、主治医とお会いして学校での留意点を伺ってください。主治医から子 どもの病状を知ることができれば、子どもの抱えている不安感を知ることができますし、 学校生活での子どもの思いに適切に応えることができるようになるものと思います。

(親からの質問)薬が合わないことによる知的能力の低下はありますか?

てんかん発作の薬物調整中に、一過性に学習能力や知的能力が低下することはあります。 しかし、長期間での比較調査では抗てんかん薬の影響で知的能力が低下したというデータ はみられていないと思います。最近は、てんかん発作の種類によって適切な選択薬や服用 量などが明らかにされてきています。そのため、主治医がてんかん発作の症状を正確に把 握できればそれに合わせて適切な薬物治療がなされるため、学習能力や知的能力への影響 を心配する必要はないものと思います。

(教師からの質問)てんかん発作には決まった誘因はありますか?

学校生活でみられる主なてんかん発作の誘発因子は、1 睡眠不足、2 日常に比べて過度 の精神的緊張、3 パターン化された模様や刺激、4 持続的な光刺激、5 過度の運動などで す。発作の誘発因子は、大抵の子どもにみられる場合と特定の子どもにしかみられない場 合とがありますので、主治医に必ず確認してください。もし子どもに特定の誘発因子があ る場合には、事前に対応の仕方を考えてできる限りてんかん発作が引き起こされないよう に配慮することが大切です。

(教師からの質問)プ‐ル指導での配慮点について教えてください。

てんかんのある子どもは水にあまり慣れていない場合があります。子どもが水に触れる 楽しさを教えることは大切ですし、運動機能を向上させるためにもプ‐ル指導はとても有 効だと思います。てんかん発作の危険を充分に考慮して、プ‐ルでの様々な体験や喜びを 味わわせてあげたいと思います。

プ‐ル指導の実施判断には、1 発作の抑制状況、2 担任の関わりの有無、3 子どもの理解 力や判断力、4 子どもの意欲と家族の希望を考慮することが大切です。

1 発作の抑制状況:完全に発作がとまっている場合や日中にまったく発作がない場合はプ ‐ルを中止する必要はありません。発作による事故を最小限にする目安として「てんかん児 の生活指導表」がありますので、それを参考にしてプ‐ル指導の判断を行うとよいと思いま す。

2 担任の関わりの有無:担任が個別で関われる場合には特に制限する必要はありません。 担任がクラス全体を指導する場合には配慮する必要があります。

3 子どもの理解力や判断力:子どもがプ‐ルでの危険の予測や担任からの指示理解がどの 程度できるかによってはある程度制限をする必要があります。

4 子どもの意欲や家族の希望:どんな子どももプ‐ルに入りたがりますし、家族も子ども のプ‐ル経験の不足を知っているためにプ‐ル指導を強く希望されます。

担任は、子どもの意欲や家族の希望を理解した上で、てんかんの病状、担任の関わり方、 子どもの理解力などを充分に踏まえながらプ‐ル指導を行うことが大切です。

(教師からの質問)クラスの他の児童生徒にはどのように告知したらよいのでしょうか?

クラス内で告知をする前提として、先ずご両親にきちんと学校生活での様子と告知をすることのメリット(安全な学校生活が送れること)を丁寧に説明して、ご両親の了解を得るこ とが必要です、告知といっても診断名を言うことはできる限り避けたいと思います。生活 面の事実として、「この子は時々このような調子の悪い時があります。」「こういう苦手な面 がみられることがあります。」と説明することがよいと思います。担任が診断名を言うこと で周りの児童生徒や保護者が納得するように見えますが、逆にてんかんという診断名を聞 くことで何か困った病気だという印象を与えてしまう可能性があります。告知をしたこと によって、他の児童生徒から“特別扱い”というイメージが広がらないように配慮してい くことも必要です。どの子どもにも平等に教育を受けることを前提に、告知を行うことで てんかんのある子どもが楽しく学校生活が送れるように心がけていくことが大切です。

(麦の会からの質問)子どもの担任から特別支援学級を勧められた場合、親は何を判断基準として普通学級か特 別支援学級かの選択をすればよいのでしょうか?

てんかんのある子どもは“自尊感情”、つまり「自分の行動に満足して自信を持ち、さら に人からも誉められて自分を誇りに思う」という感情が低下しやすいことがあります。この ような自尊感情の低下は、ひいては否定的自己(自分をダメな自分と考える)を生み出すこと になるため、社会生活を送る上で大きな妨げになる可能性があります。自尊感情を高めて、 自分は困難なことにも立ち向かっていけるという肯定的自己(自我)を身につけるためには、 どちらの教育環境が子どもに適しているのかを判断する必要があります。また、学校環境 を変更する場合には、子どもの気持ちを尊重することも大切です。子どもの気持ちを理解 するためには、実際に授業を見学して子どもの気持ちをご両親の目で確かめて見ることも 大切です。厳しい環境の中で無理に身につけた能力は、決して本当の力になって日々の生 活の中で使えるようにはなりません。これらのことを踏まえながら、通常学級か特別支援 学級かの選択をご両親で決められたらよいと思います。

(親からの質問)てんかんと ADHD との関連はありますか?

てんかんと ADHD との関連では、てんかんのある子どもに ADHD が合併している者は 14%~40%と言われています。ご家庭での子どもの行動が、不注意、多動性や衝動性とい った ADHD の症状かてんかん発作や薬物の副作用の影響によるものかが判断できなくて対 応に困ってしまう場合があります。もし、子どもに ADHD の特徴である不注意、多動性や 衝動性などが学校やご家庭でみられて困っている場合には、てんかん治療を受けている病 院または近くにあるてんかんの専門病院で一度相談してみることが大切だと思います。

以上、たくさんの質問の中からいくつかをご紹介いたしました。

国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 発達支援室 杉山 修

(日本てんかん協会東京都支部機関誌「ともしび」8 月号より転載)