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てんかんのある人の結婚と妊娠・出産

1.はじめに

てんかんの患者さんが結婚するときに、てんかんが子供に遺伝することはないのか、あるいは抗てんかん剤が胎児に与える影響はないのかと言った質問や、相手の家族へ告知すべきかという質問がよくあります。ここでは、結婚しようとする患者さんがされる質問について、私たちがどのように患者さんにお答えしているかを簡単に説明したいと思います。

2.てんかんは遺伝するか

結婚しようとしている患者さんや家族のかたから聞かれる質問の中でもっとも多いものは、遺伝性の問題です。結論から言いますと、てんかんの遺伝性は極めて乏しいということです。てんかんあるいはてんかんを合併する疾患の中で、遺伝傾向がはっきりしているものとしては、家族性本態性ミオクローヌスてんかんや歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、ミトコンドリア脳筋症などがありますが、これらは極めて希な疾患です。また親子あるは祖父母も含めた3代にわたっててんかんが発病している家系は極めて少ないことから考えても、生まれてくる子供にてんかんが発病する可能性は、てんかんをもたない人の子供がてんかんを発病する可能性にほぼ同じと考えて差し支えありません。遺伝についての心配がある方は、主治医に診断を確認した上で、自分自身のてんかんがどの程度の遺伝性があるのかを相談してください。

3.抗てんかん剤について

結婚する予定があるからあるいは子供がほしいから、抗てんかん剤を中止、あるいは減量してほしいと希望する患者さんがあります。妊娠・出産を前にして抗てんかん剤のことを考えるときには、抗てんかん剤が胎児に与える影響を考えると同時に、妊娠中の発作そのものが胎児に与える影響を考慮する必要があります。現在のところ、それぞれの抗てんかん剤がどのようなメカニズムで胎児に悪影響を与えるかについては、まだ十分に解明されていませんが、いくつかの種類の抗てんかん剤をしかもそれぞれかなりの量を服用している妊婦さんから生まれたこどもは、薬を服用していない妊婦さんから生まれたこどもと比較すると、健康上の問題が多いと言われています。一方、発作が胎児に及ぼす影響としては、大発作があると、胎児の脳が低酸素状態になるとの報告があります。

患者さんから、抗てんかん剤の中止や減量の相談を受けたときの原則は、発作型にあった薬あるいは経過から判断して有効と判断できる薬を残し、できるだけその種類を少なくすること、すなわち可能ならば単剤にすることです、またその量をできるだけ少なくすることです。この原則は妊娠や出産する人たちに限定されるものではなく、てんかん治療全体に当てはまるものです。

発作が止まっている患者さんのなかで、特発性小児良性部分てんかんと診断されている方は、抗てんかん剤を比較的安心して中止できます。また小児期に発熱時に限って発作があったもののてんかんとは診断できない患者さんは、抗てんかん剤を中止できる可能性があります。しかしながら、これら以外の患者さんにおいては、抗てんかん剤の中止は慎重にすべきと考えます。また、発作が止まっていない患者さんにおいては、有効薬だけを残すことを目標としますが、治療にも関わらず意識障害を伴う発作や全身がけいれんに巻き込まれる発作がある患者さんは、減量よりもむしろ積極的に治療する必要があります。抗てんかん剤の中止や減量は、発作が再燃する可能性を考えて、主治医と相談のうえ慎重に行なってください。

4.葉酸の投与について

抗てんかん剤、特にいくつかの抗てんかん剤を服用している患者さんでは、血中の葉酸濃度が低下することがあります。また葉酸の欠乏によって胎児の奇形が生じたり、発育障害が生ずるとする報告があります。このため葉酸の補充をすすめています。胎児の発達は受精直後から始まり、受精してから妊娠3か月までの間に重要な臓器が形成されます。葉酸は、少なくとも妊娠1か月前から服用してください。

5.妊娠中の管理および出産について

抗てんかん剤を継続していれば、妊娠中も発作頻度はほとんど変化しません。妊娠中には体重が増加しますが、抗てんかん剤は同じ量を継続するのが原則です。ただし薬によっては血中濃度を測定して、量を調整する場合があります。決して妊娠したからと言って薬を突然に中断しないでください。母胎合併症としての流産や妊娠中毒や早産については、てんかん患者において有意に頻度が高くはありません。出産後の授乳についても、一般的に問題ないと考えられます。

6.告知について

「この人と結婚しようと考えています」と言って診察室を訪れるカップルの場合には、結婚する相手に病気のことを話していることがほとんどです。しかしながら、結婚する相手や相手の家族のかたにどのように告知すべきかを悩んでいる患者さんがいるのも事実です。告知するか否かは、最終的には患者さん自身が決定すべきものと考えますが、告知の問題を考えるうえでも、てんかんについての基本的な理解が前提になります。てんかんの遺伝性は乏しいこと、てんかんは進行性の病気ではないこと、発作が止まっていれば日常生活に制限は不要であること、多くの患者さんが治療しながら元気な赤ちゃんを出産していることに目をむけてください。私たちの印象ですが、発作が抑制されていなくても、定期的に通院し発作を積極的に治療しようとしている患者さんの場合には、相手のかたもてんかんに対して理解を示してくれるようにおもわれます。

7.最後に

私たちは、てんかんの患者さんの治療を始めるときから結婚や妊娠出産を意識するようにつとめています。通院中の患者さんには、中学校を卒業したら、てんかん患者さんの結婚妊娠についてここで述べたような基本的な話をしています。自分から積極的に、主治医に自分のてんかんの特徴や将来の結婚妊娠出産について質問してください。私たちは一回で理解してもらえるとは思っていません。繰り返し聞いてください。結婚や妊娠・出産を考えるうえでは、患者さんが自分自身のてんかんの特徴や抗てんかん剤について理解することがとても大切であると考えています。