てんかん情報センター

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3.治療

 小児の難治てんかんの治療も、基本的に一般的なてんかんの治療と方針は同様です。最初に薬物治療を試み、薬物治療では十分な効果が認められない場合には外科治療を考慮します。特に小児ではてんかんの原因が脳の器質的な異常であることがはっきりしている場合に、早期にてんかん外科治療をお勧めすることがあります。それは特に幼少期に、手術により失われた脳の機能を残りの部位が代替して獲得する“脳の可塑性”という現象が認められるということが理由の一つです。外科治療で発作がコントロールされなかった場合や、外科治療の適応がなかった場合には緩和療法を行います。以下それぞれの治療について詳しく説明していきます。

・薬物治療

 治療の順番として、まず抗てんかん薬を内服する薬物療法を行います。発作型に基づいて、効果が期待できる抗てんかん薬を一つずつ試みます。他の抗てんかん薬に変更する際、急に中断することは危険なので避けます。2~3剤試みても無効なら、数種類を組み合わせて使用します。ただしWest症候群では、薬物療法の前にACTH療法を選択される例もあるかもしれません。以下に小児に使用される主要な抗てんかん薬についてまとめた表を載せます。

●小児で使用される抗てんかん薬の名称と使用量

一般名(略号) おもな商品名 維持使用量
(mg/kg/日)
有効血中濃度
(μg/ml)
バルプロ酸(VPA) デパケン, セレニカR 10~50 40~120
カルバマゼピン(CBZ) テグレトール 5~20 4~12
ラモトリギン(LTG) ラミクタール 1~10
*) 併用薬別
3~14
レベチラセタム(LEV) イーケプラ 40~60 12~46
ゾニサミド(ZNS) エクセグラン 4~12 10~40
トピラマート(TPM) トピナ 3~9 5~20
フェニトイン(PHT) アレビアチン, ヒダントール 3~12 5~20
フェノバルビタール(PB) フェノバール 2~4 10~40
プリミドン(PRM) プリミドン 5~20 5~15
エトスクシミド(ESM) エピレオプチマル, ザロンチン 20~30 40~100
クロバザム(CLB) マイスタン 0.2~0.8 0.05~0.3
クロナゼパム(CZP) リボトリール, ランドセン 0.01~0.2 0.02~0.07
ルフィナミド(RFN) イノベロン **) 体重別 10-25
ガバペンチン(GBP) ガバペン 10~50 2~20
スルチアム(ST) オスポロット 5~10
ビガバトリン(VGB) サブリル 50~150
ラコサミド(LCM) ビムパット ***) 体重別 5~10
ペランパネル(PER) フィコンパ ****) 併用薬別
スチリペントール(STP) ディアコミット 50 10~20

*)ラモトリギンの維持使用量は併用する薬剤によって異なります。
単剤療法の場合:1~10mg/kg/日
VPAを併用しPHT,CBZ,PB,PRMを併用する場合:1~5mg/kg/日
VPAを併用しPHT,CBZ,PB,PRMを併用しない場合: 1~3mg/kg/日
VPAを併用せずPHT,CBZ,PB,PRMを併用する場合: 5~15mg/kg/日
**)ルフィナミドの維持使用量は体重によって異なります。
4歳以上。15.0~30.0kg:1000mg/日, 30.1~50.0kg:1800mg/日, 50.1~70.0kg:2400mg/日, 70.1kg~:3200mg/日
***)ラコサミドの維持使用量は体重によって異なります。
4歳以上。30.0kg未満:6mg/kg/日, 30kg以上50.0kg未満:6mg/kg/日,50kg以上:成人と同じ200mg
****)ペランパネルの維持使用量は年齢および併用する薬剤によって異なります。
単剤療法の場合:成人および4歳以上の小児:4~8mg /日
PHT,CBZ以外を併用する場合:4~8mg/日
PHT,CBZを併用する場合:8~12mg/日

●発作型に応じた抗てんかん薬の選択例

第一選択 第二選択
部分発作 CBZ LTG, LEV, ZNS, TPM, PB, PHT, CLB, CZP, LCM, PER
欠神発作 VPA ESM, LTG, CZP
強直発作 VPA LTG, RFN, PHT, ZNS, TPM, PB, CLB
強直・間代発作 VPA PB, LTG, LEV, ZNS, TPM, PHT, PER
ミオクロニー発作 VPA LEV, CZP, CLB
・外科治療

 薬物治療で発作が十分にコントロールされない場合には、てんかん外科治療を考慮します。てんかん外科治療は、てんかんを生じる源となる場所(てんかん原性領域)が発作時ビデオ脳波同時記録や脳磁図、MRI、PET・SPECTなどの諸検査により限局して特定できた方が適応になります。てんかん原性領域が、手足を動かしたり言葉をつかさどったりといった重要な機能を担っていないことが確認できたら、てんかん原性領域を取り除くための病変切除術、皮質切除術や脳葉切除術が実施されます。特に小児では発作が生じることによる発達を含めた心理・社会的な影響を考慮し、早期にてんかん外科治療が検討されます。
 病変が大きくてんかん原性の分布が広いと推定される症例では、脳葉離断術が選択されることもあります。脳葉離断術は脳の組織を切除するのではなく、対象となる領域と他の領域を結ぶ繊維連絡を絶つ手術です。これによりてんかん原性領域で興奮が生じても、他の領域に興奮が伝播しないためてんかん発作には至らなくなります。例えば、片側巨脳症では半球離断術が実施されることが多く、複数の脳葉にまたがる形成異常などでは、病変の存在する位置に応じて前頭葉離断術や後頭葉・頭頂葉離断術などが実施されます。

・緩和治療

 残念ながら抗てんかん薬で十分な発作のコントロールが得られず、外科治療の適応にならなかった方や、外科治療を実施したけれど発作が残ってしまう方もいます。完全に発作が無くならなくても頻度が半分程度になったり、発作の程度が軽くなったりすれば、生活の質が向上する場合もあります。緩和治療とは発作の完全抑制を目指すものではなく、発作が軽減することで生活の質を向上させることを目的とする治療です。そのような治療には、食事療法、脳梁離断術、迷走神経刺激療法(VNS)があります。それぞれQ&A>食事療法>てんかんの食事療法、情報室>てんかん外科治療の適応手術成績>脳梁離断術迷走神経刺激療法(VNS)をご参照ください。