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成人の難治てんかんとは

成人の難治てんかんに関する諸問題は順次各論的に詳述されるので、発作の難治性、発作の反復性、重複する障害の観点から成人の難治てんかんとその治療を俯瞰します。

1.難治性てんかん発作

一般に、難治てんかんは難治性てんかん発作をもつものと定義されます。例えば、八木は、難治てんかんを、発作型に有効と考えられている薬剤を十分な投与量で投与して、それが規則的に服薬されても、治療者と患者が期待する程度に抑制されないてんかん発作をもつものと考えています。現在、坑てんかん薬でてんかん患者の約70%は満足のゆく発作抑制に至りますが、残りの20〜30%の発作はそれに達しないと言われています。

2.発作の反復性による多次元的障害

難治てんかんでは、てんかん発作が反復することで、生理・身体的、心理・精神的、実存的、社会的等多次元にわたる障害が招来されます。てんかん発作の反復は、単なる同一物の反復ではありません。生理的次元おいてすら、「燃え上がり現象」が示すように、発作の反復がてんかん病態を増悪させると言われています。発作は、急激な転倒や周囲の危険な物により、反復して身体に危害をおよぼします。心理的・精神的次元では、記憶障害や精神的不調などを増悪させ、予測できない危険とその不安から引き蘢りに至らせることもあります。他の苦痛や災害と同様に、発作の反復は人の意志を打ち砕き、消沈させ、実存的危機を発生させます。てんかん発作は社会の中で反復するため、効率性と危険性を理 由に排除され、偏見・差別と社会的不利益がもたらされると同時に、治療も社会の施設や制度を使用して行われ、社会の問題が治療に表現されます。すなわち、難治てんかんは、発作の難治性に加えて、発作の反復による生理・身体的、心理・精神的、実存的、社会的な問題をもつのです。

3.併存する重複障害

難治てんかんには、てんかんに特異的ではない脳器質性障害、神経学的欠損、知的障害、心因性症状、行動障害、抗てんかん薬の服薬が困難となる特異体質や内科的疾患などが重複します。

4.難治てんかんの症候群

難治てんかんは、局在関連性てんかん(側頭葉、前頭葉、後頭葉、運動領、頭頂葉、多焦点性、局在性未決定)、全般性てんかん(特発性、潜因性あるいは症候性<ウエスト症候群、レノックス・ガストー症候群、ミオクロニー失立発作てんかんなど>)、局在性か全般性か決定できないてんかん(全般発作と部分発作を併有するてんかん<乳児重症ミオクロニーてんかんなど>、全般発作か部分発作か判別できない発作をもつてんかん)、反射てんかん、小児慢性進行性持続性部分てんかんにみられます。成人では、症候性局在関連てんかんと症候性全般てんかんに多いのですが、特発性全般てんかんにみられることもあります。難治な局在関連てんかんは、側頭葉てんかんとともに前頭葉、頭頂葉、後頭葉てんかんにも存在します。

5.成人の難治てんかんの人生的課題

人生観が多様になったとはいえ、出産、七五三を経る子供の成長、青春期の通過儀礼と性愛、結婚、社会における役割、老後生活など多方面にわたって、人は課題を背負いながら生きます。成人難治てんかんの治療は、独立した生活、就労、性愛、結婚、妊娠などの人生的課題と関係せざるをえません。

6.難治性てんかん発作の治療

難治性てんかん発作の治療では、次の諸点が重要です。第一は、診断の再検討です。進行性頭蓋内病巣の有無など原因の検索、発作型の確定(てんかん性か非てんかん性か、あるいは両者の併存か、全般発作か部分発作か)、およびてんかん類型の診断を再検討して、薬剤の選択、転帰の予測、治療目標の設定を行います。第二は、治療の再検討です。発作型、発作頻度、群発および重延状態の有無、発作の出現する時間帯、副作用、坑てんかん薬の種類、投与量、薬剤の組み合わせ、薬物血中濃度、そして治療経過を再検討し、使用する薬物を決定します。第三は、治療への協力の再確認です。規則的服薬についての治療者の不十分な説明と被治療者の安易な考え、薬の副作用、被治療者の治療への不満から、服薬の不履行が起こります。長期にわたる難治てんかんの治療では、治療への不満が絶えず生じますが、治療の経験を通じて薬物治療の合理性を納得することが大事です。第四は、難治てんかんでは多剤併用が多いことです。坑てんかんの単剤治療が優れていることはよく知られていますが、局在関連てんかんの30%は、単剤治療で適切に発作が抑制されず、2剤併用ではその30%のうちの10%が、さらに3剤の併用で残りの20%のうち5%は満足な発作抑制を得ると言う報告があります。多剤療法が有効なのは、相乗作用で発作抑制がもたらされ、副作用の増大がない場合です。多剤併用治療の有効性と有害性が経験科学的に検討されるべきです。第五は、外科的治療の適応です。薬物治療で満足な結果が得られない症例の外科治療は、外科医とてんかん専門医のチームでおこなわれるべきです。

7.多次元的障害に対する治療

発作の反復による障害、重複障害、抗てんかん剤の副作用、治療関係における精神力動および成人期の人生的課題による悩みなどは、複合して多次元的に現れます。身体的には、発作による身体の危険に対する予防、麻痺や失調等の神経学的障害に対する抗てんかん剤の影響と副作用、および合併症に注意すべきです。特に老年期の成人では、抗てんかん剤の作用も含めて身体への配慮が必要です。心理・精神的には、神経心理学的欠損、薬物による記憶障害、偽痴呆、心因反応や精神病様状態の誘発、てんかん発作の反復と関連する精神病様状態などに配慮した生活指導や治療が要求されます。実存的危機には熟慮された慎重な対応が要求されます。患者さんが治療のなかで医療スタッフと出合い、交流し、別れるのも社会生活です。治療が、患者さんにとって良い社会経験であるような治療環境、社会制度が必要です。難治てんかんをもつ患者さんの社会生活は狭められていますが、社会制度を十分に利用して、個性的な社会生活の拡充と充実を工夫すべきです。病気の障害を道徳的に裁断して患者さんを毀損しないように配慮してしすぎることはありません。勿論、多次元的障害の治療の前提に、てんかん類型、発作の様相(転倒する発作の有無など)、発作の頻度と出現する時間帯(覚醒時か睡眠時か)、群発や重延状態への傾向などの資料や、血液、生化学、抗てんかん剤血中レベル等の定期的な検査は不可欠です。

おわりに

難治てんかんの治療の旅は、反復する労働をかせられたシーシュポスの労苦を避けられず、患者と家族の「きっとやりとげられるという希望」に依存して進んでいる現状にあります。重苦しい雰囲気は避けられません。しかし時には、陽気に、呑気にいきたいと、筆者は念願しています。