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成人のてんかんの病態

1.病因

病因は、器質性(脳損傷がある)と機能性(脳損傷がない)とに分けられます。器質性の病因は、低酸素症、脳の血行障害や出血、脳炎、腫瘍、外傷などさまざまです。脳の損傷部位と正常部位との境界にある神経細胞がてんかん発作を引き起こしやすい状態にあると考えられています。機能性の原因には、てんかん発作を起こしやすい体質(てんかん素因)の関与が想定されています。この器質性、機能性の間には連続性があり、一人の患者さんに両要因が共存し得るし、そのような場合がむしろ多いと言われています。たとえば、頭の外傷後に発病するてんかんは、てんかんの家族歴のある場合の方が無い場合にくらべて発病率が高いと言われています。

2.発作の分類

てんかん発作の国際分類(1981)では、発作症状と脳波像を分類の基準としています。発作はその始まり方の違いから大きく2つの発作群—部分発作と全般発作—に分けられます。

部分発作は、発作が始まる時の症状と脳波異常が一側の大脳半球の限局した部位の発射(興奮)に由来する発作を総称します。部分発作では発作の始まりに意識が保たれていることが多く、従って発作の始まりを自覚できます。しかし、脳のある部位に始まった発射が脳内を広がれば意識が曇ってきて、全身のけいれんにまで進展する場合もあります。発作中に意識の曇りがない場合を単純部分発作、意識の曇りがある場合を複雑部分発作、全身の痙攣に至る場合を二次性全般化発作と呼びます。単純部分発作はその症状の違いから、運動発作、感覚発作、自律神経発作、精神発作の4つに区別され、それぞれはさらに細分類されます。

全般発作は、発作の始まりの症状と脳波像から、両側の大脳半球全体から同時に始まるとみなされる発作を総称します。発作の始まりから意識を失い、けいれんする場合には始めから左右対称です。発作症状の違いから、欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作の6つに分類されます。

3.てんかんの分類

てんかんとは、発作を反復する慢性の脳の状態を指します。てんかん発作はてんかんという病気の症状です。同じ患者さんが部分発作と全般発作の両方を持つことはきわめて稀です。そこで、病因と発作型の組合せから大きく4つの分類ができます。

  • 特発性部分てんかん
  • 特発性全般てんかん
  • 症候性部分てんかん
  • 症候性全般てんかん

です。

特発性てんかんの予後は一般に良好です。小児・青年期に発病し、精神神経学的に異常がなく、単剤で発作抑制が可能な場合が多く、成人期前に寛解に至る場合が多いのです。しかし、常に良性とは限りません。微細な器質病変によって修飾される場合があります。同様に症候性てんかんが常に難治とは限りません。てんかんの遺伝素因があってそこに脳器質病変がかかわりてんかん原性を獲得した場合には、素因を欠く場合にくらべて予後は一般に良好です。

4.成人の難治てんかん

特発性てんかんと症候性全般てんかんは発病に年齢依存性の特徴を持ち、成人前に発病するのが普通です。一方、症候性部分てんかんはあらゆる年齢に発病します。ですから成人のてんかんでは、小児期に発病した症候性部分てんかんと症候性全般てんかんが成人期にまで持ちこした場合に加えて、新たに症候性部分てんかんが発病するので、結果的に小児に較べて症候性部分てんかんの割合が大きくなります。

静岡東病院の実例で見てみます。少し前のデータですが、平成7年には成人病棟(第5病棟)に計150人の患者さんが入院しました。年齢は15歳から60歳(平均28歳)でした。149人(99%)が症候性てんかんで、125人(83%)が部分てんかんでした。入院治療を必要とすることを難治性の指標とすれば、表1に示したように、側頭葉てんかんと前頭葉てんかんが成人の難治てんかんの多くを占めていることになります。

5.症候性部分てんかんの分類

症候性部分てんかんは、てんかんの原因となる部位の解剖学的な違いから、前頭葉てんかん、側頭葉てんかん、頭頂葉てんかん、後頭葉てんかんの4つに分類されます(表1)。

てんかん診断 人数
特発性全般てんかん 1
症候性全般てんかん 24
症候性部分てんかん 125
側頭葉てんかん 39
前頭葉てんかん 33
後頭葉てんかん 11
頭頂葉てんかん 3
脳葉の確定を保留 39

前頭葉は、脳の働きの中で主として運動性の機能を分担しています。従って、短い発作でもけいれんや強制的な姿勢の変化などの症状が出現しやすいのが特徴です。短い強直性のけいれん発作や瞬時に転倒する発作は、全般発作の強直発作や脱力発作である場合が多いのですが、症状と脳波をよく分析してみると、部分発作の運動発作であると判明する場合も少なくありません。前頭葉てんかんを症候性全般てんかんと診断している場合があるのです。

側頭葉は聴覚や記憶・言語・情動などの精神機能や自律神経機能と関係があります。頭頂葉は主として手足の知覚を、後頭葉は視覚機能を分担しています。いずれのてんかんにおいても、発作発射が広がっていくとけいれんや意識の障害が現れます。

6.病因にかかわる最近の話題

(1)内側側頭葉てんかん

側頭葉てんかんの中で、海馬・扁桃核がてんかん原性を持つ場合には、病因、症状や経過が共通したまとまりを示す一群があることが分かってきました。

海馬・扁桃核は、ヒトを頂点とする動物の進化の歴史(系統発生)から見れば、脳の中でも非常に古い構造です。この海馬・扁桃核は、(1)電気刺激などによって最も発作が起きやすい、(2)さまざまな原因で障害を受けやすい、(3)古い構造ですので脳の他の領域と広く神経連絡している、などの特徴があるために、てんかん原性を獲得しやすいと考えられています。

内側側頭葉てんかんは、次のような特徴を持っています。乳幼児期に複合型熱性けいれん、とりわけ数十分に及ぶけいれん重延状態の既往があり、その後、学童期から20歳位の間にてんかんが発病する。単純部分発作症状として上腹部からこみ上げて来る不快感や恐怖に似た感覚を自覚し、深部脳波記録では海馬に発作発射が始まる。SPECTやPETなどの神経画像検査や神経心理検査で海馬の機能低下が認められる。手術で切除した標本では海馬硬化と呼ばれる神経細胞脱落を主とする組織像が見られ、海馬・扁桃核を含む側頭葉のごく限られた部位の切除手術による術後成績が非常に良い、などです。この海馬硬化は神経画像検査(特にMRI)で一側の海馬の萎縮像として比較的容易に見いだすことができ、診断の大きな手掛かりとなります。

これは、乳幼児期のけいれん、特にけいれん重延状態の結果、海馬の神経細胞が障害を受けて、それがその修復を含む営みの中で(神経細胞は一度死ぬと二度と再生しませんので、この修復過程は主として神経細胞相互のネットワークの再構築であると考えられています)てんかん原性を獲得していくのだという仮説が有力です。

内側側頭葉てんかんは、外科手術によって完治する可能性が最も高いてんかん症候群です。また、頭蓋内電極留置をして脳波記録をしなくても手術が可能なてんかんとして、手術例が増えてきています。

(2)皮質形成異常

内側側頭葉てんかん以外の症候性部分てんかんの病因は、最初に述べた症候性てんかんの病因すべてが該当します。ところで、最近の画像診断の進歩によって、皮質の部分的な形成異常が明らかになる例が増えてきました。皮質は脳の表面を覆う神経細胞の層です。皮質形成異常は、胎生期に脳が形づくられる段階で、神経細胞の配列と成熟が障害されるために起きます。正常組織との境界ではなく、まさに異常な皮質部位そのものから発作発射が起始すると考えられています。画像診断で明らかになれば、外科手術の大きな手掛かりとなります。