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第5章 発作の外科治療

1.はじめに

てんかんの治療法の第一選択は、当然ながら、抗てんかん薬をはじめとする薬物治療となります。しかし、てんかん専門医による適切な薬物治療にもかかわらず、日常生活が困難となる発作が止まってくれない難治性てんかんの治療法として、外科治療が有効な場合があります。

現在、外科治療の考え方としては、主に二つの方法があります。「切除外科」と「遮断外科」です。それぞれについて、以下に述べます。

2.切除外科

発作の原因であるてんかん原性領域を切除する手術法です。原因を除去するわけですから治療成績が優れていて、手術した患者さんの70%から80%程度で発作が消失しています。

ただしここで大事なのは、切除手術を行う前のさまざまな検査で、てんかん原性領域を正確に調べることと、切除を予定している大脳皮質にどのような機能(例えば、手足の運動・言語・視覚・記憶など)があるかを調べておくことです。

手術までの段階

ここで、手術に至るまでの流れを紹介いたします。

必要な検査は、既往歴・発作歴・発作症状・現在の生活状況の聴取、難治性の再確認、発作のないときと発作時の頭皮脳波・蝶形骨誘導脳波と発作症状のVTRの同時記録、脳磁図、神経心理検査、CT・MRI・SPECT(発作のないときと発作時)、脳血管撮影と同時に行われて言語・記憶の優位大脳半球を調べるアミタールテストなどで、これを目的とした入院を当院ではステップ1と名付けています。

ステップ1のみで、てんかん原性領域が同定され、そこが重要な脳機能に関与する部位から離れている場合、直達手術に至ります。

また一方で、てんかん原性領域の拡がりの想定が困難であったり、てんかん原性領域と一致して、あるいは極めて近くに、重要な脳機能の存在が予想される場合、頭蓋内に脳波用電極を置く手術(頭蓋内電極留置術)を行って、更に正確な情報の獲得に務める場合があります。これを、当院ではステップ2と呼んでいます。

ステップ1や2を経て、手術適応があると複数の専門医で判断され、患者さんとご家族に有用性と危険性を充分説明して、合意を得て、はじめて手術となります。この段階をステップ3と呼んでます。

代表的手術法

ここで、代表的な手術方法を列挙して、説明いたします。

(1)前部側頭葉切除術

てんかんの外科でも最も歴史があって確立された手術法であり、最も数多く施行され、最も手術成績が良いとされています。

この手術法は、側頭葉の内側構造と外側皮質を同時に切除する術式です。

当院では、(1)外側皮質は上側頭回を温存し、中側頭回と下側頭回を切除範囲とし、(2)後方には側頭葉先端から、言語優位側では4cm以内、非言語優位側では6cm以内であり、(3)内側構造として海馬の前2〜3cm・扁桃核・海馬旁回・鈎を切除しています。

(2)選択的扁桃核・海馬切除術

側頭葉てんかんの中でも、特異的な一群として内側型側頭葉てんかん(MTLE)と呼ばれるものがあります。これは、発作の原因が扁桃核、海馬、鈎、海馬旁回など側頭葉の内側にあるとされることから、この手術法はこの内側構造だけを切除する手術法です。手術成績や合併症の可能性は、 (1)とほぼ同様です。

側頭葉てんかんの手術成績

(1)と(2)の手術法での手術成績や合併症などの可能性について、少し古い文献ですが、当院で手術が施行され、術後2年が経過(2.1~10.3年;平均5.2年)した側頭葉てんかん手術100例をもとに、三原の文献を引用して述べます(表4)。

手術時年齢は9~50才(平均25.1)。発症から手術までの期間は1~34年(平均13.2)。74例がステップ2を経由し、26例が省略されました。97例に前部側頭葉切除術、3例に選択的扁桃核・海馬切除術が施行されました。

合併症としては、いずれも軽いものですが、3例に不全片麻痺、3例に喚語困難、1例に不全片麻痺と喚語困難の合併をきたしました。

術後、2年間の抗てんかん薬の服用は術前とほぼ同じ内容とし、発作がなく脳波異常も認めない場合は漸減し、5年目をめどに中止するという方針をとっています。

国際的に認知されている術後評価法であるEngelの基準に準じた術後成績は表4の通りで、発作消失群は81%となっています。

人数
発作消失群 81
1.完全に消失 56
2.前兆のみが残存 12
3.発作があったが、その後(2年以上)はない 5
4.離脱発作のみ 8
稀発発作群(年1回以下) 10
1.最近になって再発し、まれにみられる 3
2.術後から発作がまれに起こる 4
3.発作があったが、その後(2年以上)はまれ 0
4.夜間のみに発作が起こる 3
発作改善群 (術前の発作頻度の10%以下) 2
発作不変群 (改善群の条件を満たさない) 7

術後の知能指数(WAIS)は、言語優位側(主に左)で平均3.8点、非言語優位側(主に右)で平均6.7点、術前に比べて上昇しました。術後の記憶指数(WMS)は優位側で平均4.6点、非優位側で平均10.4点、術前に比べて改善しました。

就労状況では、定職についている患者さんが術前の25人から術後は63人に増加し、無職は術前が15人であったものの術後には1人もいませんでした。また、64人が運転免許証をもち、そのうち36人は術後に取得しました。結婚は24人、そのうち15人は術後に結婚しました。

(3)皮質切除術

主に、前頭葉・頭頂葉・後頭葉などの皮質に比較的限局していると考えられるてんかん原性領域を切除する手術法です。

てんかん原性領域の拡がりや重要な脳機能を司る大脳皮質との位置関係を調べるために、一般的に前述の頭蓋内電極留置術を経て、この手術法は施行されることが多いです。

(4)大脳半球切除術

本手術法は、粗大病変が一側の大脳半球にあり、これによる片麻痺と難治性のけいれんが存在している場合に、知覚領野及び運動領野を含めて広く一側の大脳皮質を解剖学的あるいは機能的に切除する手術法です。

手術対象は、一側の大脳半球の機能障害が遅くても8才以前に完成し、これによる片麻痺と難治性のけいれんをきたすSturge-Weber病、半側巨大脳症、ラスムッセン症候群などです。

脳機能障害の時期が早かったことで、患側の大脳がもつべき機能が健側の大脳で代償され、この手術法を行ってもこれ以上の脳の機能低下を招かないことが明かな時に限られます。

3.遮断外科

この手術の範疇に入る主なものとして、「脳梁離断術」があります。脳梁は、左右の大脳の間に位置して相互の大脳の情報伝達をはたす神経線維の束からなっています。

これを離断することで、発作発射の両側同期化が抑えられ、二次性全般化が緩和されることが期待されています。一般的には、転倒して怪我をしやすい脱力発作、強直発作、前頭葉てんかんに有効で、ミオクロニー発作、側頭葉てんかんには無効であるといわれています。

しかし、てんかん類型、発作型、脳波所見からどのような症例に実際に有用なのか、なぜ発作が抑制されるのかなど明かとは言いがたい面もあります。ただ、切除外科の対象から外れた難治性てんかんへの外科治療手段としての可能性があるので、手術適応基準の確立が望まれています。

4.おわりに

薬物治療に充分に反応しない難治性てんかんの中には、外科治療が著効する場合があります。外科治療で得られるもの、また失うかもしれないことの両面を理解し、ご家族とも充分に相談して、不明なことがあれば主治医に納得いくまで説明をうけることが、大変大事なことだと思われます。

参考文献

三原忠紘.てんかんの外科療法.秋元波留夫監修.てんかん.東京:日本文化科学社,1995:131-148