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第6章 心理的な問題について

心理学には、人間の心としての心理という面と、脳の機能としての心理(神経心理)という面があります。心は脳にあるのでこの二つは同じものですが、少し見方が違います。ここから慢性神経疾患である難治てんかんをみると、慢性疾患であることからくる問題と、中枢神経疾患であるてんかん特有の問題があります。

1.慢性疾患の心理的問題

これは心の面からみた問題になります。

病気にかかると、本人も家族も不安になります。さらに難治の慢性疾患では「いつになったら治るのだろうか」「この薬は自分にあっているのだろうか」「いつまで薬を飲むんだろう」などなど、答の得られないさまざまな疑問をいつも抱えています。病気が重いほど、長びくほど不安は大きくなります。

心はいろいろな方法を使って不安を解決しようとします。これには自分の病気を良く知ろうとしたり、同じ病気の人と友達になるといった積極的な方法をとる人もいます。しかし、病気を否認して、違う診断をする医者を求めてあちこち受診したり、薬を飲まなかったりといった消極的な方法を取る人もいます。

病気を認めなければならなくなると、怒りを周囲にぶつけたり、絶望的になったりすることもあります。

また長年病気に消極的に取り組んだままでいると、後述する抑うつ状態や過度の依存が起きやすくなることがあります。

自分の病気をきちんと理解し受け入れることは、治療の上で、また社会復帰に際しても重要です。

2.てんかん特有の問題

(1)不安

これは主に心の問題にはいります。

慢性疾患であることの不安に加えて、てんかんでは発作性に自分の意識や身体の自由が失われ、実際に危険な症状があるという点で特殊な問題があります。さらに難治てんかんではそれが頻繁に起こるため、「起こったらどうしよう」という不安は誰でも常にもっています。しかし、不安そのもののために身体的な能力はあるのに外出しないで家に引きこもっていたり、不安発作といわれるてんかん発作とは異なる発作が出てきて日常生活に差し支える場合は、病的な状態といえます。また第3章の診断で述べられた疑似発作も、多くは背景に不安があります。このような状態の原因となっている不安は比較的具体的なことがあり、それを自分で見つけることで軽快することもあります。しかし周囲のアドバイスや薬があった方がよい場合もあります。

(2)抑うつ状態

抑うつ気分というのは、気分が沈んで憂鬱になり、悲観的で何をみても楽しくなく、ちょっとしたことで涙が出る、空虚な感じがするという状態です。ショックなことがあったり環境が変わったりすると一時的には誰にでも起こる状態ですが、睡眠障害や体重減少がはっきりしている場合はうつ状態の可能性があります。感情の機能を主に司る側頭葉に発作の焦点のある人はうつ状態になりやすいと言われています。ただし反応の乏しい状態が欠神発作や複雑部分発作の重延状態でないことを確かめる必要があります。

うつ状態に対しては休養と抗うつ薬が必要です。多くは数カ月の経過で治っていきますが、発見が遅れた場合などでは軽快するまでに年月がかかることもあります。

(3)認知機能への影響

脳の機能からみた心理面の変化です。

てんかん発作の原因である脳の器質的障害、反復する発作、発作間欠時の神経細胞の異常活動、抗てんかん薬などが高次脳機能に影響を及ぼすことがあります。最近では、知覚機能、情報処理機能などさまざまな面からみると、人により程度は異なるものの、てんかんの患者さんで認知機能の障害が少なからずみられるという報告があります。

(4)知覚、思考や行動の変化

難治てんかんの患者さんの一部に、知覚や思考の変化または行動の変化を伴う精神状態が現れることがあります。

知覚の変化は、発作症状とは違う幻覚~ほとんどは自分にとっていやなことが見えたり聞こえたりするもの~を感じるものです。思考の変化は、例えば、実際はそうではないのに皆が自分を嫌っているように思えたり、まわりの出来事が全て自分と関係しているように思えるといった症状です。てんかん発作は家族や医師に理解してもらえるのできちんと伝えても、こういう症状はなかなか言えないことが多くあります。また家族も戸惑ってしまい相談が遅れることもあります。行動の変化とは、周りの状況に合わない行動、例えば目的と違うことをしたり、時に乱暴な行動や自分を傷つける行動をすることです。

これらは、次のように原因を確かめることが必要です。なお、単純部分発作として現れる精神症状は除きます。

A.一過性に症状が現れる場合

発作そのものや発作と関連した症状である場合、発作前後にこのような症状がみられます。発作後1~2日経ってから症状が現れることもあります。これらの場合、開眼して覚醒しているように見えても意識障害があり、自分ではその間の記憶がほとんどありません。発作が続いている場合はその治療が優先します。

発作間欠時に突然このような症状が現れる場合があります。この場合は意識は清明であり、自分でこの間のことを記憶しています。この状態が数週間から数カ月続き、おさまっても繰り返し出現することがあります。この場合は、後述のBの場合と同じく、薬による治療が必要です。

B.常に症状がある場合

知覚や思考の異常が続き意識障害がない場合は、てんかん性の異常活動とはまた違った形で神経細胞の活動の調節ができなくなっていると考えられます。こういう症状に対しては非常に有効な薬が何種類もあります。発病から間もなくであればほとんどの場合は数週間以内に主な症状は軽快するので、早めに医師に相談することが大切です。

行動の変化の場合も、意識が清明かどうか、その行動を自分で理解しているのかといったことを確かめなければなりません。背景に幻覚や「他の人が攻撃してくるので自分を守っている」という思考の変化があることがあります。

(5)薬による影響

抗てんかん薬は当然中枢神経系に作用します。発作を起こす細胞だけに作用すればいいのですが、正常の神経細胞にも作用する場合があります。多くは認知機能に対する影響で、注意や集中がしにくくなり、眠気として感じられたりします。それも普通の量では慣れてしまうことがほとんどですが、人によっては影響が強いことがあります。特に子供では、薬により行動を抑制する機能が弱まり、多動になることが知られています。成人でも同様の症状が出ることがあります。また思考や感情など高次脳機能に影響のある人もいます。ほとんどは服薬開始後間もなく現れてくるもので、変化があれば主治医に相談して下さい。

(6)発作が止まったときの問題

発作が毎日続いている人にとっては、発作が止まれば何も悩みがなくなるように思われるかもしれません。確かに、薬の組み合わせや外科治療により長年難治だった発作がほぼ起こらないものとして生活できるようになった時、すぐに復学し、就職し、社会生活を始める人たちもいます。しかしその一方で、むしろ悩みが増えている人もいます。これは、1つは自分の病気に取り組むという「仕事」がなくなった目標喪失、もう1つは大きな壁がなくなったために今まで気づかなかった他の問題につきあたるためです。対人関係の問題が特に多いという当院での結果があります。これは裏を返せば、発作のあるときでも解決できる問題が周りにあるかもしれないということです。病気を中心に考えていると、ものの見方や考え方が狭くなっていることもあります。

病気とつきあうことは大切ですが、余裕を取り戻すためにも、少し離れて周りを眺めてみることも、時にはいいかもしれません。