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第1章 てんかんリハビリテーション(総論)

国際障害者年と国際障害分類(ICIDH)

1981年は京都で開催されたアジア初の国際てんかん学会議と、国連の定めた国際障害者年が重なり、協会にとって大変多忙な年でした。ちなみに国連が採択した国際障害者年行動計画の骨子は以下の通りです。

  1. 障害のある人の完全参加と平等を目標とする
  2. 障害は知的障害、精神障害など多様であることについて、一般の人の理解を促進する
  3. 障害とは個人と環境との関係において生ずるものであり、能力の障害が社会的不利につながるような社会条件を見つけださなければならない
  4. 国際障害者年は障害者のためだけにあるのではなく、社会を障害者、老人などにとって利用しやすくすることは、社会全体にとって有益なものである
  5. 様々な障害者の大半が発展途上国で生活しているので、途上国の社会経済的発展など環境の改善が必要である
  6. 障害者の多くが戦争やその他の暴力の犠牲者であることから、国際障害者年は世界平和のための諸国民の協力に役立てる
  7. 公衆の理解とリハビリテーション、障害の予防を重視する

この行動計画の中にある「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである。」という一文に触れ感激した記憶はいまだ鮮明です。

一方行動計画は、各国が障害のある人のための長期行動計画の策定や法制度の見直しなど各国が取るべき措置まで規定したものでした。それに従い政府は、内閣総理大臣を本部長とする国際障害者年推進本部を総理府内に設置し、数値目標を持った障害者プランを策定し、それが現在の「新障害者プラン」に繋がっているのです。

このように障害のある人にとって大きな歴史のうねりのさなかの1980年に国連は「国際障害分類(ICIDH)」を発行し、障害を「機能障害」、「能力障害」、「社会的不利」の三つに分類しました。

「機能障害」とは、疾患から直接生じたもので、たとえば倒れる発作のある人の場合、発作の最中姿勢を保つための筋肉の緊張のバランスが崩れることをさします。

「能力障害」とは、機能障害のために、日常生活や職業、レクリエーションなどを行うのに必要な能力が障害されていることをさします。先の例で言えば、立っていられず転倒することをさします。

「社会的不利」とは、機能障害や能力低下の結果生じた社会的不利益のことをさし、英語でハンディキャップと表現されます。ンディキャップはあってはならないことなのです。以後、「ハンディのある人」というのは、このような意味で使うとされたのですが、言葉の使い方について一貫して混乱が見られます。先の例でいえば、転倒が危険で外出や職業に制約が生じることをさします。しかし、環境の整備、制度の充実、保護帽の使用などによりこの不利益は軽減することが可能なのです。同じ程度の機能障害や能力低下があっても、社会の受け入れ態勢によって、社会的不利益の程度は国、社会、文化、時代によって異なるといわれるゆえんです。

国際生活機能分類(ICF)

WHOは、先の国際障害者分類の改訂版として、2001年に国際生活機能分類を出版しました。名称が「障害分類」から「生活機能分類」と大きく変わっており、一目でこれが初版、改訂版と理解するのに困難を感じますが、大幅改訂の理由は国際障害者年の行動計画の4を発展させたところにあると思います。対象を疾患や事故にともなう障害にとらわれず、あらゆる人の健康状態に広げたのです。たとえば、妊娠は病気でもないし、障害とも受け止められていません。しかし妊娠に伴い身心機能、身体構造は変化します。その結果活動や参加に制限がもたらされることになります。老人のことを考えても同様のことがあります。「障害のある人が住みやすい町は全ての人にとって住みやすい町である。」障害のある人の主張が住み良い社会を作る牽引車になっているのです。今回の主な改正点は以下の通りです。

  1. 国際障害者年の行動計画の3を発展させ、障害には、環境が大きな役割を果たしていることを明らかにするために「背景因子」を盛り込みました。
  2. 障害というマイナスの部分だけでなく、プラスの面も評価できるようになりました。
  3. 批判の多かった機能障害→能力低下→社会的不利という一方通行の考えを改め、これらが相互に関わり合っていることを明確にし、それらのいずれにも背景因子が関与するという考え方に改めました。

今後のリハビリテーションは、以上の考え方を十分考慮に入れながら進めてゆく必要があります。てんかんに限らず障害とは、それをもった人が、その人自身の努力だけで克服すべきものではありません。障害があるということで、その人の住む社会、家庭において様々な困難を伴います。これらは障害に付随した解決すべき対象と考えるだけでは不十分で、それらの困難が障害そのものにも影響を及ぼしていることを理解し、てんかんのある人の問題を多面的に評価する必要があるということです。また、リハビリテーションの場では、障害のある人は「何らかの解決すべき問題を抱えた人」と認識しがちで、その問題の解決に力が注がれがちです。もちろんそれは基本的なこととしておろそかにすべきではありません。一方で障害は、それをもつ人のほんの一面であるあるという認識も非常に重要です。その人の障害以外の部分、持っている力に十分注目しなければ、就労を含めた社会参加を援助する手段としてのリハビリテーションの意義は半減します。

ヨーロッパてんかん白書

昨年ヨーロッパてんかん白書が公表されました。そこでは、てんかんリハビリテーションは従来、就労や青年期の患者が独立して生活するための社会生活技能の向上に焦点が当てられてきたが、最近はそれだけではなく、全般的な機能の改善を目的とした様々な治療手段を用いるようになった。予後で最も重要なのはQOLであり、全般的な社会生活機能であり、てんかんの自己管理、スポーツといった身体的側面、心理的、精神医学的側面、神経心理学的側面など、従来考えられていたものよりずっと広範囲な取り組みが、てんかんリハビリテーションにおいて必要であると述べられており、そのための多次元的治療を必要が強調されると同時に、社会的リハビリテーションの重要性に触れています。

ややこしい表現もあったかと思いますが、要するに「全般的機能」とはてんかんのある人が生活をしてゆく上で必要なあらゆる知識・能力をさし、そのための治療、訓練、教育などの全てがてんかんリハビリテーションであるということだと思います。「多次元的治療」などという難しい言葉もでてきますが、要は様々な専門職が、様々か角度からリハビリテーションに取り組む必要があるということで、てんかんリハビリテーションにはまだまだやるべき事がたくさん残っているという事だろうと思います。

不規則服薬で月に1〜2回起こっていた人が規則正しい服薬を始めたところ、処方される薬の量も減り、副作用も発作もなくなってしまうことがあります。作業所への通所をきっかけに生活が規則正しくなり、その結果服薬も規則正しくなったら、発作も副作用もなくなってしまったという話しもよく聞きます。

外来の患者さんの再発の理由で、不規則服薬は無視できない程多いといわれています。病気や治療に対する正しい理解や社会への参加を援助することは、時には発作を減らすことにも繋がるのです。これもリハビリテーションなのです。

全般的機能に関するリハビリが必要であると実感しながらも、実施はなかなか難しいと思える反面、これらの一部は工夫しだいで、今すぐにでも手をつけられるのもまた事実ではないでしょうか?

エンパワメント

筆者はてんかんにおけるエンパワメントについて「スクーリングやカウンセリングを通して、患者が自分自身の病気のエキスパートになり、自主的に決断できる力を引き出す」という考えをドイツのベーテル・てんかんセンターで聞きました。リハビリテーションの対象を拡大する意欲とてんかんのある人の主体性を重んじるという、てんかんリハビリテーションにとって重要な鍵がこの言葉の中に託されています。障害を持つ人が中心になり、いかに主体的に社会への参加を考え実行するか(この場合の社会への参加は、必ずしも就労、結婚などをさすものではありません。引きこもっていた人が、作業所に通うようになりメンバーとの交流を楽しむのも立派な社会参加だと考えます)、リハビリテーションとはそのための援助の手段です。

今回の企画について

リハビリテーションは便宜的に医学、教育、社会、および職業的リハビリテーションに分けられ、それぞれの連携の重要性が常にいわれますが、てんかんリハビリテーションは医学的リハビリテーションの範疇だけを見ても、これら全ての分野にたこ足のように関連しています。院内各部署、院外各機関との連携は理念や観念ではなく、実践を求めています。てんかんリハビリテーションはその意味で大変やりがいがあり、また興味深い分野なのです。このシリーズでは、当院における医学的リハビリテーションを紹介するとともに、教育的、社会的、職業的リハビリテーションにもそれぞれの専門家の方々に触れていただきます。

リハビリテーション科医長 久保田英幹