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第2章 てんかんのある乳幼児の療育援助

1.はじめに

 乳幼児期のてんかんは、発病から早期でありてんかん発作が頻回にみられることが多く、発作抑制を目的とした第一義的治療が最優先されています。しかし、この時期は身体的または精神的発達面でもとても大切な時期です。てんかんをもつ乳幼児では、てんかんという病気に伴って家庭での養育や保育園(幼稚園)、通園施設などでの発達指導において様々な問題(困難)が生じる可能性があります。そのため、家庭や指導機関ではてんかんをもつ乳幼児の理解や援助方法に戸惑いや混乱がみられ、適切な療育援助が受けられにくい場合が少なくありません。ここでは、てんかんをもつ乳幼児の療育援助の際に生じる問題点やその対処法について、当院で行っている療育指導(心理教育的指導)をもとにお話したいと思います。

2.療育援助を行う上での問題点

(1)精神運動発達や社会性の遅れについて

 てんかんをもつ乳幼児では、発達面に遅れのある子どもが約1~2割位みられます。発達の遅れは、子どもによって運動面か精神面のいずれかの場合と両者の場合とがあり、そのあらわれ方は基礎疾患、脳内の障害部位や障害範囲、病状の経過などによって異なります。重篤な基礎疾患を背景にもつ場合には、運動面と精神面の両面の発達に重度の遅れがみられます。一方、基礎疾患をもたないこどもやてんかん発作が抑制されている子どもの場合には、運動面や精神面の発達が良好な子どもも多くみられます。しかし知的に正常であっても、友だち同士での遊びや友だちとの関わりといった社会性の面に遅れがみられることがあります。その要因として、発作症状や薬物治療による影響、子ども自身の発達過程の脆弱性による問題、両親の子どもへの不適切な養育態度、発作に対する周囲への過剰な気遣いや病気発覚の恐れなどによる外出制限等が考えられています。

(2)療育指導(療育相談)でみられる問題点について

 ここでは、入院または外来で薬物治療と並行して実施している療育指導場面や療育相談場面でみられた問題点を以下に説明します。

a)てんかん発作の指導場面への影響に関する問題

発作時:てんかん発作が指導場面にみられると、指導内容やその時の子どもの行動が中断され療育指導を継続できなくなることがあります。

発作後:てんかん発作後に急に指導内容が理解できなくなったり、眠気や意欲の低下といった行動がみられたりすることがあります。そのため、発作前の療育指導を継続できなくなってしまいます。

b)抗てんかん薬の指導場面への影響に関する問題

 てんかん治療中の子どもの場合には、一過性に眠気、ふらつきや失調、気分の変容といった副作用が出現する場合があります。このため、指導場面で急に指導内容が理解できなくなったり、眠気やふらつきまたは気分の高揚といった行動がみられたりすることがあります。急激な抗てんかん薬の変更や特定の抗てんかん薬の服薬によっても、指導場面での行動が変わり易く、子どもの行動を理解しにくくなることがあります。

c)指導者のてんかんの症状に対する知識や対処等に関する問題

 てんかん発作に対する知識の問題:指導者がてんかん発作に対する知識が不充分な場合には、てんかん発作が1回でもあると体調が悪いと判断してその後の指導を中止してしまうことがあります。時に、指導中にみられたてんかん発作を見過ごしたまま指導を継続してしまうことも起こります。

 抗てんかん薬に対する知識の問題:指導者が抗てんかん薬に対する知識が不充分な場合には、指導場面で子どもの行動が不安定になったような時に、その原因を薬物の副作用に転嫁してしまうことがあります。また、抗てんかん薬が変更されたことを知ったために、子どもの行動に過敏になり、指導者と子どもとの間に必要以上の緊張関係が形成され、適度な信頼関係を維持できなくなることがあります。

 治療経過に対する理解の問題:指導者がてんかん治療の経過について全く理解していない場合には、薬物治療の影響を指導効果と見誤って判断してしまい、子どもの成長を過大ないし過少評価してしまうことがあります。

d)発達環境の保障に関する問題

 保育園(幼稚園)や通園施設での運動や行事への参加の制限:てんかん発作への過度な危険防止やてんかんの症状に対する誤った判断により、園外散歩やプ-ル、お泊まり保育といった運動や行事への参加が過剰に制限されることがあります。

 両親(特に母親)の不適切な養育態度:両親(特に母親)が発作観察に振り回されてしまっている場合、子どもとの適度な情緒的基盤が形成されにくく、人格形成に必要な自己意識(自我)が成立しにくくなることがあります。また、両親は子どものてんかん発作に遭遇する機会が最も多いため、過保護になる傾向があります。てんかん発作は症状そのものが両親に発作への恐怖心や不安感をもたらします。そのために、適切な病気や障害受容をしにくくなることがあります。

 てんかんに対する心理・社会的な理解の問題:家庭や地域での生活環境の中でてんかんに対する理解の不足や偏見などがみられる場合、屋外での活動が制限され、子どもの成長・発育に必要な運動能力や社会的生活能力が形成されにくくなることがあります。

3.療育援助を行う上での対処法

(1)生き生きとした療育環境の確保

 てんかんをもつ乳幼児では、てんかん発作や抗てんかん薬の副作用等により、ぼんやりとしていたり眠気が強くみられたりして不活発になることがあります。日々の生活場面での関わりや発達指導を行う際には、積極的に周囲との関わりを持てるように生き生きとした療育環境を整えていくことが必要です。てんかんの病状を踏まえた上で、屋外での適度な運動や規則正しい生活、常に積極的な養育姿勢を心がけることが大切です。

(2)てんかん(治療)に関する正確な理解に基づく療育指導

 てんかんをもつ乳幼児は、発作症状や治療経過で出現する抗てんかん薬の副作用は一人ひとり異なります。そのため、一人ひとりの医学情報を正確に理解することが必要です。指導者はできる限り医師との連携を図るようにして、てんかん発作の症状や発作後の状態、てんかん治療中に出現する可能性のある抗てんかん薬の副作用などを理解した上で、2.で説明したような問題点を踏まえながら指導内容を工夫することが大切です。

(3)家族援助

 乳幼児期のてんかんをもつ家族は、てんかん発病後間もないことから、病気や障害を正しく受け止めるのに困難を抱えていたり、子どもの発達面より医療面を重視しすぎてしまったり、必要以上に過保護や過干渉な養育態度になってしまったりすることが少なくありません。療育指導に関わる者は、家族が抱えている病気や育児等の不安や悩みに常に耳を傾ける姿勢を持ち、病気や障害の理解、発達面の理解、適切な養育態度の理解な どを促していくことが必要です。その際には、指導者は発病からの経過や家族の持つ価値観や人間観を踏まえながら真摯に話し合っていくことが大切です。

 以上、てんかんをもつ子どもに必要な三つの援助機能を適時、効率的に活用していくことで、てんかんをもつ乳幼児に関わる様々な援助者の理解を高めることができ、その結果として適切な療育援助が可能となるものと思います。

療育指導室・児童指導員 杉山 修