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第3章 作業療法からわかったこと

1.はじめに

てんかんのある人は、発作がおさまればすぐに仕事ができるのではないかと考えられています。もちろんそのような方は大勢いますが、難治性のてんかんのある人には、発作以外にも様々な機能や能力の障害を併せもつことが少なくありません。てんかん発作を抱えて生きてきたため、すべき経験がなされてこなかったり、脳に器質的な問題を抱えているため身体的な麻痺や低下がみられたり、学校では発作などにより周りの人と軋轢が生じ、その環境になじめず他の人との関わり方を学ぶ機会が失われていたり、みんなで何かを一緒にやるグループ活動の体験が少なかったなど理由は様々です。また一見すると何の障害もない様に見受けられても、仕事上作業スピードが遅かったり、同僚とうまくやっていけないなど隠れた問題を抱えていて、それが仕事が長続きしない原因であることもあります。さらにてんかんのイメージとして、「倒れて、けいれんする病気」「どう対応したら良いのかわからない不安な病気」といった印象を持たれ、就労の前段階で社会参加を制限されることもあります。このようなイメージは、てんかんという病気の一部を表してはいるものの、てんかんのある人に対しての正しい評価ではありません。

まず、難治性のてんかんのある人が抱える発作症状や発作以外の障害などについて正確に把握し、同時に発作による受傷などの危険性を考慮して適切な対応を行うことによって多くの人は何らかの社会参加が可能になります。

2.難治性てんかんと機能障害について

国際障害分類(WHO)により、当院の作業療法に参加された難治性てんかん患者さんの機能障害、能力障害を調査してみました。てんかん発作そのものは、機能障害の中で間歇的な意識障害としてとらえることができますが、発作のない状態でも様々な身体的機能障害、知的機能障害、精神および神経症状などを併せ持つことは少なくありません。難治性てんかん患者さんの機能障害については以下のような障害が多く見られていました。

(1)骨格系の機能障害(指先のふるえ—振戦、筋力低下、上肢の協調性・巧緻性の障害、上肢および下肢の麻痺など)

(2)知的機能障害(知能の障害、記憶の障害—健忘、物忘れ、概念・抽象化の障害など)

(3)心理的機能障害(意識の間歇的障害:てんかん発作、注意の障害、感情や気分および意志の障害など)

(4)言語の障害(話し方の障害、言語の理解と使用の障害)

(5)全身性、感覚性の機能障害(全身性疲労の傾向)

3.難治性てんかんと能力障害について

次に能力障害を見てみます。機能障害により引き起こされ、主に生活場面に見られる障害で、作業療法の対象もこの階層の障害に有効と考えられています。以下の障害が多く見られていました。

(1)行動の能力障害(様々な状況に適応する能力、職業における役割の能力)

(2)状況の能力障害(仕事による負担や仕事のスピードなどのストレスに耐えられる能力)

(3)コミュニケ―ションの能力障害(話し言葉の理解、発話、書字能力)

(4)器用さの能力障害(指使いの能力)

(5)個人ケアの能力障害(入浴・整容、移動、交通機関の利用の能力)

(6)身体配置の能力障害(家事一般の能力)

以上に述べた能力障害の原因として先に示した知的機能、心理的機能、骨格の機能、言語機能障害等の関与が大きいと考えられました。入浴、交通機関の利用、炊事などは、てんかん発作が十分に抑制されていない人の場合、受傷あるいは落命の危険性は高いため、行動制限を受け、行動制限の結果、日常の家庭や社会での生活体験や訓練の経験が乏しくなることが考えられます。てんかんのある人の就労を考える時、以上の能力障害は阻害要因となります。その問題の解決や改善のためには、能力障害の原因である機能障害の可能な限りの改善と同時に、発作による危険性を十分考慮した上での生活体験や訓練の機会が欠かせないと思われます。また能力障害の正確な評価が本人や周囲の人に十分理解されない時には、周囲が本人の能力以上のことを要求していたり、本人が能力に合わない業務や職場環境を求めたりすることもあります。就労に際しては、こうした障害の評価と自分の職業適性の吟味が必要になります。正確な評価と本人の能力や適性は、本人、家族、医療スタッフ、職業支援スタッフが共通に理解することが重要です。

4.作業療法

難治性てんかんをもつ人の障害はこれまで見てきたように、障害が多岐にわたり、その実像も一様ではありません。発作の側面、身体症状の側面、精神症状の側面が見られ、なかなかわかりずらいものです。そこで当院の作業療法では、個々の患者さんの障害を正確に理解するための能力評価を主として行ってきました。具体的には木工、手芸、工芸、陶芸、美術印刷などのワークショップ、書道、華道、絵画などの教養種目、日常生活訓練として料理、洗濯、買い物、社会見学やデイキャンプ、さらにグループミーティング、スポーツや就労ミーティング(履歴書の書き方、面接の受け方、求人広告の見方等)、教育ミーティング(病気の理解、服薬の大切さ等)、それに検査として職業適性検査等を通して、個々の患者さんの評価をし、それにもとづいた目標を設定します。さらにそれらの活動を通じ作業習慣の確立、対人関係の訓練、前職業訓練、就業能力の向上、運動機能の改善などを図ります。

5.作業療法参加者の社会参加

外来での作業療法参加者を就労などの社会参加のできた群(A)とできなかった群(B)に分けて比較してみました。知能障害、精神神経症状、身体機能障害について、顕著な差異は認められませんでした。しかし作業習慣、対人関係の改善に両群の間に明らかな差異が認められました。両群共に作業習慣では意欲、持続性、自発性、集中力に問題がみられ、作業能力では理解、選択、創造性などに問題が見られていましたがA群では作業習慣の改善と選択能力に改善がみられていました。対人関係では両群共に自信欠乏、自信過剰、攻撃的、依存的などの問題を多くの人が抱えていましたが、自信欠乏や攻撃的な面の改善はA郡で目立っていました。また発作の面では、転倒する発作が抑制された患者さんはA群の方がB群より多いことも分かりました。このようにてんかん発作のある人にとって危険な発作の抑制とともに、作業療法(模擬社会的なワークショップ)を経験することで問題を改善し、社会参加が促されることが分かりました。

6.リスク管理と発作の作業に及ぼす影響

病歴や作業中の発作観察等に基づき、発作による受傷の危険性を検討し、以下のようなリスク管理を作業療法の場面で行ってきました。

(1)職員による送迎時介助(転倒する発作が週1回以上見られた人)

(2)保護帽の着用(受傷の恐れのある危険な転倒する発作のある人)

(3)立位作業の禁止(転倒する発作のある人)

(4)肘掛付きの椅子に座って作業する(発作時、発作後姿勢を保持できない人)

(5)刃物類の禁止(強直や転倒する発作や麻痺のある人)

(6)机上に比較的やわらかい材質のマットなどを敷く

以上のような対応のほか、一人一人の発作の特徴に合わせた対応が必要な場合は、本人、家族、医療スタッフとの確認や相談をもつ必要があると思われます。

これまで見てきたように、てんかんのある人の障害は、てんかん発作とてんかん発作以外の重複障害に基づきます。次にてんかん発作が作業活動に及ぼす影響について見ます。対象は、週5日の作業療法に50回以上参加した入院中の難治性てんかん患者さん50名です。100%の出席者は10名で、出席率は89%でした。欠席理由として多かったのは、①発作(26名) ②体調不良(24名) ③意欲の低下(17名)でした。発作の作業中への影響を見ますと、発作があっても作業に影響のない人が18名、発作のために作業が一時中断するものの、しばらくして作業に復帰できる人が32名、作業を中止した人は12名で、その状況は意識の回復が遅れる場合でした。

このように、てんかん発作は、作業活動への参加や遂行を阻害する要因ですが、実際には発作が起きても作業を継続し、あるいは再開できる場合が多いのです。作業効率は、発作により一概に影響を受けるという訳ではなく、発作の頻度、発作の程度、さらには発作後の意識回復の速さなど個々に検討する必要があるのです。

7.最後に

てんかん発作のある人の中には発作による意識障害はもちろんの事、一見何の問題もない様に見えて、様々な機能や能力の障害を伴っていることがあります。発作のある人たちが社会参加をするためには、その人の全体像(発作と発作以外の問題)を正しく把握し、適切な援助を行い、将来性などを本人および家族と共に考え進めて行くことが重要であると思われます。

発作がありながらも就労(一般就労、保護就労も含め)に就き頑張っている方も大勢います。病気の理解、障害の評価、能力適性の吟味をし、社会資源の積極的な利用の中で、一人でも多くのてんかん発作をもつ人の社会参加を促していくという環境作りが大切だと思われます。

作業療法主任 原田信生(現・国立病院機構東尾張病院)