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第4章 てんかんの理学療法~小児、術後、肥満への取り組み

当院理学療法では、0歳児から成人まで様々な年齢の方に理学療法を行っています。理学療法を行う患者様の障害は千差万別ですが、てんかんの理学療法として現在次のような課題に取り組んでいます。

(1)小児の運動発達の援助

(2)てんかん術後の運動麻痺の回復

(3)運動不足による体力の低下や肥満に対する運動療法

今回はこれらの私たちの取り組みをご紹介します。

1.運動発達の障害を合併した小児の理学療法

理学療法の目的は、こどもの持っている潜在能力にこども自身が気づき、その潜在能力を自発的に発揮できるよう援助することです。

てんかんのあるお子さんで理学療法を実施している方の多くは、運動発達と精神発達の両面での遅れが認められています。理学療法士は、その子の持つてんかん発作や様々な姿勢や運動の様子を観察し、運動の遅れの程度や原因を考え、理学療法を進めていく手がかりを探していきます。

比較的多く認められる問題として、体を支える力が弱く不安定で、手足の動きも少ないため様々な動作が行えないことが挙げられます。その原因はてんかんを原因とする運動発達の遅れに加え、治療薬の影響や発作による転倒で怪我をしないよう気を付けるあまり運動の経験が不足していることなども考えられます。

理学療法はその子の年齢や状態に合わせ運動面から発達刺激を与えたり、姿勢や筋緊張の異常への対処方法を工夫します。具体的には、腹這い、寝返り、座位保持、四つ這い、立ち上がり、歩行へと進めていきます。立位や歩行ができない場合、姿勢保持装置や、歩行補助具を用います(写真1,2)。

理学療法を行う上で注意することは、課題を無理やり押し付けることはせず、患者様の自発的な運動を促すことです。患者様の興味や意欲を自然に引き出せるよう玩具や遊具を使ったり、音楽に合わせて体を動かすなどの工夫が必要です。

運動発達の遅れの問題は理学療法だけでは対処できないため、保育士、児童指導員、看護師と連携を十分取り、きめ細かな対応ができるようにしなければならないと考えています。

2.てんかん術後の理学療法について

てんかんの治療のひとつに外科手術があります。術後に運動麻痺の起こる可能性が高いか低いかは、手術の部位により異なります。てんかん発作を起こす場所が運動野という場所にあり、そこを切除しなければならないような場合があります。運動野は筋肉の運動の中枢のため、術後は片麻痺といって、切除した場所と反対側の手足に麻痺が起こる可能性は高まります。運動麻痺以外にも、飲み込みがうまくできなかったり、うまく話せなくなるなどの症状を合併することもありますが、ほとんどが一過性に終わります。

理学療法は、麻痺した運動機能の回復を目的に術後早期から開始されます。手術後はベッド上で軽い運動から始め、麻痺の回復にあわせ、座る→立ち上がる→歩くことへ徐々に進めていきます。手術後すぐに歩くことができる患者様もいますが、麻痺の程度が重かったり、薬の副作用で眠気が強く、歩けるようになるまで時間がかかる患者様もいます。特に足全体に力が入らなかったり、つま先を引きずってしまうためにうまく歩けない場合は、下肢装具(写真3)といわれるものを作ったり、杖をついて歩く練習を行なう場合もあります。最初は装具や杖を使用して歩いていても、歩行練習を継続することで、装具や杖を使わなくても歩くことができるようなります。

3.体力低下や肥満の理学療法について

てんかんの患者様の中には、発作による転倒を予防するために日常生活を制限されている方がすくなくありません。自身の転倒に対する恐怖感から運動への興味や意欲が低下していたり、運動や移動など活動に興味があるのに周りからなかば強制的に制限されているなど、理由は様々です。活動制限の結果、運動不足による体力低下や肥満を合併することになり、これらがまた活動性の低下をもたらすという悪循環に陥っている患者様も少なくありません。

また、抗てんかん薬は体重の増加により血中濃度が上がりにくくなったり、体重に合わせた増量のために肝機能障害を合併するなどを通して、効果を得にくくなっている方がいらっしゃいます。治療を適切に進めるためには、体重のコントロールは意外に大切なのです。

活動制限は体力の低下や肥満のみならず精神的なストレスの原因となります。患者様の中には食べることでストレスを解消しようとし、肥満を引きおこすという悪循環に陥ってしまう方もみられます。また運動経験の不足は、運動への興味を失うとともに「何もできない」という自信のなさといった精神面にも影響を及ぼします。

当院では従来、運動に関しては病棟の活動の中で実施してきましたが、運動能力や体力に大きな障害があったり、肥満など特別な問題を合併している方には、理学療法での個別の対応を始めました。

理学療法は運動をまず体験していただくことから始め、運動に興味を持てるようなプログラムから少しずつ始めます。マットやベッド上では、四つ這いや膝立ちになり、四つ這いで這ったり、膝立ちで歩いたりします。これらは全身を使った運動になり、発作が起こった時でも怪我をする危険が少ない運動といえます。

車椅子を使用している患者様では、車椅子上でキャッチボールをしたり、ボールを蹴ったりします。運動に慣れてきたら、安全を確保して車椅子からの立ち上がる、平行棒の中で歩くといったことを行います。徐々に運動を増やしたり、運動を強くすることで、運動量を増やしていきます。

体力の向上を目的にする場合、固定式の自転車で自転車漕ぎを行います(写真4)。発作の多い患者様や大きな発作がある場合、理学療法士が側に付き添い、安全を確保します。徐々に運動時間を運動の強さを増やしていきます。

ある程度発作がコントロールされている場合、よりダイナミックな運動を行います。立った姿勢でキャッチボールをしたり、ボールを蹴ったりします(写真5)。上手く出来るようになると、より積極的に運動しようとする姿勢が生まれてきます。運動に興味が湧き、病棟でのスポーツ活動にも意欲的に参加できるようになります。

一般的にスポーツは発作による転倒のため、危険と思われがちですが、監視が十分あれば決して危険ではないとされています。一例をあげると入浴の方が監視下での水泳より溺死の危険が高いとの報告もあります。

てんかん患者様は発作のため運動や日常生活が制限されるストレスが身体面、精神面に大きく影響し、運動による運動不足の解消はてんかん治療の上でも必要なことと思われます。理学療法を通して少しでもこれらが改善できるようにお役に立てるように今後も効果的な運動方法などについて考えていきたいと思っています。

運動療法主任 鈴木一弘