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第7章 社会参加のための援助の実際

はじめに

家庭内もしくは家庭外の場所で、何らかの社会的役割を持ってそれに従事することを、私たちは「社会参加」とよんでいます。役割とは人によって様々ですが、例えば家庭内であれば主婦であったり、主たる家事従事者であったり、家庭外では会社員、作業所通所、施設入所、学生などをいいます。

役割や社会参加の場所は、その人の身体的、心理的、社会的状況によって様々に異なります。家庭外で活動するよりも家庭内での役割に従事することを希望する人もいます。また、家庭外の場所への参加を希望しても、発作等の理由で十分に果たすことができない場合もあります。社会参加の形に正しいこたえはありませんが、いくつかの例をあげて、社会参加の支援について考えてみたいと思います。

1.社会参加の準備の支援

【事例1】Aさん(48才・男性)は、小学生の時に発病しました。発作は月に数回の意識を消失し転倒するものでした。両親の送迎により地域の県立高校を卒業後、発作による受傷を恐れ、約15年間在宅で経過してきました。20代の頃には「働きたい」と言っていたAさんも、発作の抑制を待つ間にだんだんと希望を口にしなくなりました。当院に入院し他の患者さんと楽しそうに交流し、作業療法で一生懸命に作品作る姿を見て、担当の看護師が「障害年金を受給して、作業所へ行ってみないか」とAさんに提案しました。はじめはAさんもご両親も障害年金や作業所が何かわからず、「発作があるし今更何も新しいことをしなくても」「蓄えはあるからお金をもらわなくても」と消極的でした。そこでまず障害年金について説明をし、申請の手続きを進めました。数ヵ月後に受給が決定した時、ご両親が「実は今後のことが不安だった。年金がもらえるとこんなに安心できるのだとは思わなかった」と話されました。そして「本人にまだできることがあれば是非させてあげたい」と家庭外の場所への参加の検討を希望されました。Aさんは今、保健所のデイケアに週1回通っています。5年になりますが「親友もできたし、今のところをやめたいと思わない」のだそうです。

社会参加にはまず、きっかけが必要です。Aさんのきっかけは入院して他の人と交流を持ったこと、作業療法に参加して作業をする楽しみを実感したこと、そして本人の可能性に気づき後押しをしてくれる人がいたこと、があげられます。相談に来られる人の中には、ご両親は「本人がしたいと言えば何でも協力する」とおっしゃる方がいますが、ご本人は「何をしたらよいのかわからない」と悩んでいる方が多く見られます。社会参加をしたい気持ちはあっても、それをどうしたら実現できるのかを自分自身で知っている人ばかりではなく、そうこうしている内に気持ちがだんだん小さくなってしまうこともあります。きっかけを見つけること、試してみることを支援することがまず必要になります。そして社会参加には経済的な安心も欠かせませんし、サービスの利用の検討も必要になります。そのために障害年金の受給や障害者手帳の取得等も、社会参加に向けての準備のために必要な支援の一つになります。

2.目的にあった場所の選択の支援

【事例2】Bさん(50才・女性)は、中学校の時に発症しました。発作は胸が熱くなりその後に意識を失うようですが、一人暮らしのため正確な発作の型や頻度が確認できません。自宅で倒れているのを別居している姉に発見され、当院に救急車で搬送されてきました。退院後にまた同じようなことがあると心配なため、日中は少しでも他の人の目がある場所に参加し、困った時に相談する相手を作ることを目的に、保健所のデイケアへの参加を提案しました。中学校卒業後より30年以上他人と交流したことのなかったBさんにはとても不安なことの始まりでしたが、主治医や姉との約束もあったので、毎週かかさず参加しました。地域の保健師と病院も連絡を取り合い、毎日の生活や食事の様子についても確認をしました。1年間デイケアに通う中で、Bさんの生活は少しずつ広がりを見せ、新しいスーパーでの買い物の話、デイケアのメンバーで出かけた話、調理実習で作った料理の話、保健師さんに教えてもらったネギの家庭栽培の話など、生活が広がるにつれ疑問や質問も増え、自分で「どうしたらいい?」と聞いて解決することが少しずつできるようになってきました。また日常会話の中で、今のところ発作は見られていないことが確認されています。

社会参加の目的はその人なりに様々です。Bさんは生活を維持していく上で、支援者がいる場所に参加することが必要でした。その他に、収入を得るとか、生きがいを見つけるとか、友達を作るとか、目的に応じた場所と方法を選択するための支援が必要となります。生活の支援者を得ることが目的の場合には保健師や相談員のいる保健所、他者との交流が目的の場合にはデイケアや生活支援センターの利用を検討することがあります。仕事をすることを考えるのであれば、作業所や職業安定所、障害者職業センターを選択する場合もあります。

3.本人の生活技能を高めるための支援

【事例3】Cさん(32才・女性)は、中学生の時に発症しました。発作は意識を失って無目的な行動をするものが月単位で見られていました。軽度の知的障害があり養護学校高等部卒業後より作業所に通所しています。作業所では色々なものを作ることが楽しいと話されました。Cさんは当院入院中に「生活技能訓練」に参加されました。目標は「友達をつくる」ことでした。生活技能訓練では対人交流に必要となる基本的な対人技能を繰り返し練習し、適切な場面で適切に使用することができるようになることをめざします。Cさんは積極的に訓練に参加し、病棟でも看護師を相手に練習に取り組みました。退院の時に「作業所でも訓練で練習したことを生かして友達を作りたい」と話されました。

実際に社会参加を開始したら、次にはそれを利用しながら生活をより充実させることが目標になります。Cさんは友達を作って楽しい生活をしたい、と考えました。他にも自分で生活上のいろいろな手続きができるようになりたい人や、行動の範囲を広げたい人などがいるでしょう。そのために必要な技能の修得などが社会参加の次の課題になります。周囲の支援者が本人の生活を援助したり代行したりするだけでなく、本人が自身の力でできることを増やすための支援を行うことが必要になります。本人の発作の状況や能力、生活する環境に応じて本人自身の技能を高めることで、生活の拡大は実現され周囲の支援者も本当に必要となる部分についての援助がしやすくなります。

4.目標達成のために「今」必要な支援

【事例4】Dさん(25才・女性)は高校生の時に発症しました。発作は周りの人には殆ど気づかれず、自分だけが感じるものが主体です。病気のことを開示せずに何度か仕事については失職・転職を繰り返していました。途中病気を開示しての就職を希望し、障害者職業センターを利用しての就職活動をしましたがなかなか思うように進まず、「病気のことをうまく説明できない」「仕事が見つからない」「自分はもう何もできないような気がする」と何度目かの面接で泣きながら話されました。頑張って疲れてしまったDさんに休憩の目的も含めて、一旦方向を変えて作業所を利用してみることを提案し、早速Dさんは保健所に相談に行きました。保健所で紹介された作業所を見学に行ったDさんは「みんなが笑顔で迎えてくれ、『いつから来るの?』と聞かれた。こんなこと初めてだ。」とのことでした。1年半後に来たDさんの相談は「やはり就職したい」とのことでした。指導員と保健師から、以前作業所に通っていた仲間が就職した会社にアルバイトに行ってみないかとすすめられたそうです。Dさんは、「作業所では仲間や指導員が少しのことでもできると『すごい!』と言ってくれる。自分にとって作業所はなくてはならない場所になった。でもみんなにそう言われて、自分も働けるのではないかという気がしてきた。」と1年半前とは違った顔で話されました。

社会参加にはその人にあったステップを考えることが必要になります。本人の目的を達成するためには、その人が今どのくらいの力を持ち、どのくらい発揮できる状況なのかを十分に確認して支援することが必要となります。Dさんは就労が可能な発作の抑制状況にあり作業能力にも問題はないと思われましたが、度重なる失職や失敗の体験から、自身の能力を十分に発揮できる状況ではありませんでした。その場合にはまず、確実に成功し本人の自信につながる場所への参加を検討することも必要になる場合があります。

まとめ

新しい場所への参加は、大きな不安が伴い勇気が必要です。そして参加してからはそこでの生活を維持することに非常にたくさんの力を使います。失敗や成功を繰り返しながらその経験が本人にとって力になっていきます。社会参加のためには常に支援者が本人に並行し、必要な時には手を引き、ある時には後ろから背中を押し、時には離れて見守るなど、その時の状況によって距離を変えながら、本人と一緒に確認していくことが必要と考えます。そして、本人が安定して参加することができるようになった時にも、不安な時にはいつでも自分の行動を確認することができることを保障することも大切です。

ソーシャルワーカー 望月雅代(現・国立長寿医療センター)