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第8章 服薬の自己管理と良好な対人関係の確立をめざして

1.はじめに

てんかん発作をもつ患者さんたちは、発作抑制を願って、様々な検査を受けたり薬の調整を行うために入院して来ます。当院での患者さんたちの入院生活は、ベッドにじっと寝ているような毎日ではありません。調整される抗てんかん薬を服用しながら、作業療法に参加したり、運動を行ったりしています。その過程で看護師は薬の効果(発作の頻度や症状の変化)や副作用の日常生活への影響を見、担当する医師と話し合いを重ねながら、治療が進められます。患者さんたちは、作業療法や運動以外の時間は、テレビを見たり、本を読んだり、雑談をしたりして過ごしますが、これらの時間を利用して、以下に述べるような学習やミーティングを行います。

入院生活は基本的に共同生活を送るわけで、その意味では病棟といえどもひとつの社会です。どの社会にもその社会なりのルールがあり、もちろん病棟にも最低限のルールがあるのですが、それすら守るのが困難な人がいます。他の患者さんたちとの協調が必要なのですが、このことにも困難を伴う人がいます。考えてみれば、多くの患者さんたちはそれぞれの家庭で個室を持ち、遠慮や気がねなどとは無縁な生活を送ってきています。夜更かしの習慣、喫煙、等々、それまでの日常は簡単には変えられません。このような人たちにとっては、入院生活を維持すること事態が、知らぬ間に社会的リハビリテーションとなっているわけで、そのために看護師は様々な援助や働きかけをします。

てんかん発作を抑制するためには、飲み忘れのない服薬だけでなく、張りのある日常生活を送ることも大切なポイントになります。てんかん以外の慢性の病気を持つ人達もまた、その疾患とともに生きるために、日常生活に工夫を凝らしています。てんかん発作を持つ人達も例外ではありません。てんかん看護の役割の1つは、患者さんたちに病気のことを理解してもらい、服薬などの健康管理を主体的に行えるようになるとともに、張りのある生活を送るにはどうしたらよいのか、日常生活での関わりを通して患者さんとともに考えることでもあります。

2.てんかん成人病棟

2003年度について、延べ入院患者数227名中147名の1ヶ月以上の長期入院患者さんがありました。食事、清潔、排泄行為等の日常生活動作に対して介助が必要な患者さんの割合は、発作時の受傷を含めて2割から3割、精神分裂様症状をはじめさまざまな精神症状を呈する患者さんは約4割、また暴言、暴力等で対人関係に障害を抱える患者さんは7割以上もありました。

病棟では「日課表」、「週間予定表」を設け、作業療法、運動療法やカラオケ、ビデオ鑑賞、散歩などのレクリエーションを行っています。作業療法や運動は、日常活動の発作への影響、服薬の副作用の様子を知るためにだけ必要なのではなく、発作のために生活範囲を制限されたり、精神的に変調を来たしている患者さんたちにとって、新しい体験に取り組み、意欲や集中力を養い、対人関係を学び、規則正しい日常生活リズムを得る絶好の機会となります。

てんかんは慢性に経過し、治療が長期に及びます。他の慢性疾患と同じように、大切なことは、てんかんという病気と上手につき合う方法を見つけることです。規則正しい生活習慣と服薬習慣を身に付けるのもそのひとつで、発作を出来る限り減らし、病気と上手につき合うための基本的条件となります。これが、作業療法や運動に加えて、服薬や対人関係について入院生活を利用して学べるよう熱心に働きかけている理由です。また、てんかんという病気に関する患者学習会(1回/3ヶ月)、ビデオによる指導等も行い、病気をよく知る機会を設けるようにしています。

3.服薬指導

てんかん成人病棟では、抗てんかん薬(AED)の服薬に関して、系統的な指導を行っています。これは、AEDの服薬を最終的には患者さん自身が管理、実行できるようになるための1つの過程です。便宜的に、AED自己管理導入期、AED自己管理試行期、AED自己管理実行期と、3段階に分けて指導を行っています。

AED自己管理導入期は、患者さんにAED服薬履行の大切さを認識してもらうところから始まります。患者さんの知的能力や意欲に見合った個人指導と定期的な集団学習を組み合わせて、指導を行います。教材として、そのために当病棟で作成した小冊子とビデオを使用します。個人指導では、看護師が患者さんと一緒に小冊子を読みながら、AEDの副作用等を説明します。集団指導では、ビデオを用いて、AEDの名前と剤型、錠数、服薬方法、事故や飲み忘れ時の対処方法を学んでもらいます。同時に、患者さん同士でも服薬経験を互いに話し合ってもらいます。そして、服薬時間に定期的にナースステーションに取りに来られるかを観察し、自己管理能力の評価を行います。

AED自己管理試行期は、患者さん自らが看護師の指導の下に1週間分のAEDをセットし、服薬時間にナースステーションに設置した場所から自分の薬を取り出し、服薬後に服薬チェック表に記録します。その際、飲み忘れや服薬チェック表の記載の有無等を看護師が観察します。外泊時にはAED自己管理を試行してもらい、その結果を検討します。もちろん、この時期にも導入期と同様、個人指導と集団指導が引き続き行われています。

AED自己管理実行期は、退院後の生活を見通して、患者さん自らが服薬行動を自主的に行います。AEDを自分でセットし、管理、保管を行い、服薬を実行します。看護師は、夕薬服薬後に患者さんの1日分の服薬を確認します。その後、患者さんのAED服薬自己管理全体が評価されて、退院後の生活に見合った服薬の方式が検討されます。

てんかんをもつ人々は、この病気によって日常生活が一定の制約を受けることになります。しかし、AED服薬の自己管理によって生活の幅が広がり、より独立した生活を送ることができるでしょう。

4.対人関係

てんかん患者さんと接する時、大事なことはまず、患者さんそれぞれがてんかんという病気を抱えて生きてきた、その大変さと心情を受け入れることから始めなければなりません。また、知的障害を併せ持つ患者さんに対しても、その人の人格を尊重して、接するようにするのが当然のことです。

薬物調整による発作抑制が入院目的の主軸であるなら、それぞれの患者さんの生活背景を考慮し、入院生活中、治療に専念できるように、もし対人関係が上手くいかなければ、その調整を図り、できれば退院後を見通して、社会性を養ってもらうのが、補助軸としての病棟看護の大事な役割となります。

こうした援助は、看護計画に基づいて作業療法や運動、自由行動の折々に行われています。患者さんには様々な人がいます。援助の方法も様々です。援助がかなりの成果を挙げた場合もあり、それ程の結果が得られなかった例もあります。試みに、両者の例をそれぞれ挙げてみましょう。

その患者さんは、特発性全般てんかんの発作抑制のために入院してきた35歳の男性でした。所謂、リストラで 職を失い、離婚、同居していた両親の家に引き篭もり、昼夜逆転の生活を送っていました。離婚と両親からかけらていた能力以上と思われる期待に押しひしがれ、入院当初、何事に対しても殆ど意欲が湧かず、病棟でも引き篭もり、独語も観察されました。検査を終え、服薬治療が始まり、それまでの昼夜逆転の生活から、定められた日課に従った入院生活に次第に馴染むようになりました。この期間中、入院生活技能訓練に参加し、人との交わりの中で次第に明るさを取り戻しました。こうした結果とそれまでの生活背景、及び心理検査をもとに、パラメディカルスタッフを交えた話し合いが持たれ、退院後を見通しての援助計画が立てられました。先ず最初に、病院内の作業療法への参加促しが行われ、次第に積極的に通うようになりました。並行して進められていた服薬指導も効果を上げ、AED服薬自己管理が可能になった頃、更に話し合い、検討が行われ、病院外の障害者職業センターに通い始めました。AED服薬によって発作抑制は順調に進み、患者さんは退院の運びとなりましたが、患者さんは現在、障害者職業センターに通いながら、求職中です。この例は、援助計画とパラメディカルスタッフの働きかけが、好結果をもたらした1例です。

しかし一方、51歳の女性のように、いつまでも同室患者さんとのいさかいが絶えないことから、部屋替えが頻繁に行われ、結局、現在は個室に入院中という患者さんもいます。彼女には、動作停止と強直して後方に倒れる発作がありました。薬物療法が始まってすぐ服薬指導が開始され、現在、AED自己管理試行期ですが、それまでの生育歴や生活背景から、やや自己中心的、そして被害意識が強い性格で、看護スタッフの度々の関わりにもかかわらず、他の患者さんとの協調関係が上手く保てません。例えば、洗い終えた人の洗濯物を勝手に放ってしまう(「長く洗濯機に入れてあるからいけないのだ」、しかし「放ってしまうことはないでしょう」と問えば、「それはわかるけど」と理解できる)等々。経済的には裕福で、退院後の就職の必要がないとはいえ、社会で生活してゆくには協調性が必要です。患者さん本人の性格が、当の本人やさらには他の患者さんの援助に大きな障壁となった例で、今まで知る機会の少なかった社会通念や「少しの辛抱」を学ぶには、少し時間がかかるということなのでしょう。

5.終わりに

てんかんという病気にまつわる心理社会的条件や患者さんの退院後の生活を考えると、現在のところてんかん成人病棟の看護の両輪は、服薬指導と対人関係等の社会性の確立への援助です。前者は、方式があり、ある過程にのっとって行われる、言わば技術的援助です。後者は、患者さんの生活背景が得られて、看護計画が立てられ、1つの過程に沿って援助が行われたとしても、個々の場面では特定の方式のない、言わば患者さん個人との遭遇的援助と言えるでしょう。とすれば、関わる側の経験と判断による適切な対応が要求される所です。

てんかん看護は、患者さんが、いかなる形であれ社会に参加するために必要な疾患の自己管理や社会性の向上といったリハビリテーションの中で最も基本的であり、かつとても大切な部分を担っているのです。てんかん看護はいくらでも幅を広げる余地が残されており、大きなやりがいのある分野なのです。

看護師長 良知和江