情報室てんかんに関する記事・情報源(雑誌や書籍の案内)を掲載します。

てんかんの包括治療

当院が理念としてあげている包括医療について説明します。

包括医療とは、「多職種の専門家が、チームあるいはシステムとして、病気をもつ人とともに、生活の質の改善を目指す医療」と仮に定義します。

てんかんは、発作が主症状です。発作の治療さえきちんとしていれば、何の問題もない方もいらっしゃいますが、一方で発作の治療のみならず、合併する症状や生活上の悩みなど様々な面で治療や援助を必要としている方も少なくありません。必要なところに紹介してもらう、たとえば今かかっている科以外の診療科を紹介してもらったり、他の専門機関に相談することで問題が解決する人もいます。しかし、患者さんの抱えている悩みや問題が一つではなく、しかもそれらが複雑に絡み合っているような場合には、患者さんが必要な専門職を訪ねて解決を求めるのに時間がかかったり、問題の核心が曖昧になってしまうことがあります。このような方のためには、患者さんを中心に、必要とされる職種が集中的に治療に参加して問題を把握・整理し、解決に向けて様々な治療や援助を行うのが有効です。このようなてんかんの包括医療の担い手をてんかんセンターといいます。本来なら、日本中にいくつものてんかんセンターが必要なのですが、昨今の医療・経済事情から、数を増やすのが難しくなっています。そのために、各地で様々な工夫が試みられるようになりました。たとえば外科手術が可能かどうかを、複数の医療機関それぞれが持っている技術と専門性を提供しあい共同で検討するようなことも始まっています。ネットワークを活用した治療です。これも広い意味での包括医療といえるかもしれません。

当院はてんかんセンターとして、今述べた意味でのてんかんの包括医療を担ってきました。次に、どうして包括医療が必要なのか?、どんな人に包括医療が必要なのか?もう少し詳しく説明したいと思います。

てんかんは全年齢に渉って発病しますが、そのピークは幼小児期と老年期にあります。小児期に発病して、成人期に病気を持ち越すことも少なくありません。この意味では、全年齢に渉って、小児科とか成人科という枠にとらわれることなく、ずっと安心してかかることのできる病院あるいはシステムが包括医療の一つの側面です。

てんかん発作は病気の主症状でも、他の病気の一症状でもありえます。後者の場合には、○○病に合併するてんかんといいます。いずれにしろ、てんかん発作がある場合には、他の身体・精神症状が随伴する場合があります*。これらの随伴症状が、てんかん発作とともに、あるいは人によってはてんかん発作以上に、生活上の負担になっていることがあります。したがって、これらの随伴症状をただしく診断し、適切な対処あるいは助言をしていくこともとても大切です。このように、てんかんをもつ人の発作以外の部分に適切に対応することも包括医療の一つの側面です。

さらに、てんかんは正しく理解されているとは限りません。世の中に理解されていないだけではなく、病気をもつ人の周囲の人や本人にも理解されていないことがあります。偏見や無理解が教育や就職や社会生活の障害になっていることがあります。このマイナスの理解によって、心理的な負担は加重されています。無理解は社会の習慣や制度に現れていることもあります。このような場合に適切なサポートを提供し、理解をすすめていくことも、包括医療の一つの側面です。

もちろん、てんかんの主症状である発作の治療は最も大切です。このために最新の検査技術や治療法を導入し、診療科(例えば神経内科や脳外科)の枠を越えた協力体制で取り組むことも包括医療の一つの側面です。

しかし、てんかん発作はモノではありません。生きた人がもつ病気の症状です。無理矢理に取り去ってしまうのではなく、その人の生活や身体やこころの状態をみながら、弊害(例えば薬の副作用)がないように治療をすすめて行くことが大切です。もし仮に薬やその他の治療によって発作のコントロールが難しくても、生活のリズムや生きる悦びのなかで発作が減っていくこともよくあります。このように生活のなかでの治療の意味を考えながら、病気に取り組んでいくことも包括医療の一つの側面です。

まとめますと、包括医療は、以下のような諸側面に取り組むことを目的としています。

  • 診断と鑑別診断
  • 発作の治療(薬物の選択、外科、養生法)
  • 適切な自己管理(規則的服薬、生活習慣、情報など)
  • 生活・就労・発達・心理状態についての評価と個別カウンセリング(経済、移動、計画など)
  • 社会・生活スキル
  • 療育、神経心理学的訓練
  • 理学療法、作業療法
  • 精神医学的治療

しかし、それだけではなく、さらに

  • リハビリテーションから雇用・就学・福祉へ
  • てんかんに向き合うためのサービス(てんかんをもつ人、その家族)
  • 情報の提供
  • 専門家の教育:医師・コメディカルスタッフの研修、非医学専門職 (教師、雇用専門職など)の研修
  • 一般啓発

も包括医療に含まれる事柄です。
このために、以下のような職種の専門家がかかわります。

  • てんかん専門医(小児科、神経内科、精神科、脳外科)
  • てんかん看護師
  • 薬剤師
  • ソーシャルワーカー
  • 心理士
  • 作業療法士
  • 理学療法士
  • 聴覚言語療法士
  • 療育・児童指導員
  • 検査・放射線技師
  • その他
  • 福祉・教育・雇用への連携職種

このような包括医療は、単に個々の病院や機関で行うだけではなく、ネットワークとして種々の機関が連携することで、より有効に行うことができます。このため当院は、地域のなかで、そして広域にも、種々の機関と連携し、有効なネットワークづくりを模索しています。

*例えば、運動障害、発達障害、認知機能障害、精神医学的障害、頭痛(発作関連、偏頭痛)、睡眠障害、生殖機能障害、事故、骨疾患、心・脳血管障害、その他をあげることができます。これらの原因は種々です。もちろん、すべての人にみられるわけではありません。

文献

久保田英幹、八木和一。てんかんの包括医療。臨床精神医学講座第9巻「てんかん」、中山書店、531-546頁、1998年。